ずるずると鼻を鳴らし、くしゃみをして、器の前まで来るのに顔を背けてしまう——。鼻がつまっているせいなのか、それとも別の不調なのか。食べてくれない愛猫を前にすると、どうしていいか分からなくなってしまいますよね。
猫にとって「におい」は、食欲のスイッチそのものです。コーネル大学猫健康センターは、猫の上部気道感染症について「鼻がつまることで、食欲を刺激する食べもののにおいを感じ取れなくなることがある」と説明しています。つまり鼻づまりは、それだけで食欲不振に直結しうる症状だということです。この記事では、当メディア編集部が獣医学の公開情報とフード各社の公式情報を調査し、「なぜ食べないのか」→「緊急度の見きわめ」→「今日からできる工夫」→「フードの見直し」の順に整理しました。まずは落ち着いて、いまの状況を一緒に確認していきましょう。


一言でいうと、口を開けて呼吸している・水も飲まない・ぐったりしている・丸1日(24時間)以上まったく食べない、といったときは早めに動物病院へ、くしゃみや鼻水はあっても水が飲めて元気があるなら、鼻づまりをやわらげる工夫と香りを立てる食事を試しながら観察を、というのが基本の見方です。猫は食べない状態が長く続くと肝臓に負担がかかりやすいといわれるため、犬よりも早めの判断が安心とされています。
猫が鼻づまりで食べなくなる理由|においと食欲のつながり

「鼻がつまっているだけなのに、どうしてご飯まで食べなくなるの?」——ここには、猫という動物の食べ方の特徴が関係しています。
猫は、食べものを口に入れる前に、まずにおいで「食べられるものかどうか」「おいしそうかどうか」を判断します。コーネル大学猫健康センターは、猫の上部気道感染症の解説のなかで、「鼻の通り道がつまることで、食欲を刺激する食べもののにおいの感知がさえぎられることがある」と説明しています。犬や人よりも、においが食欲に占める割合が大きい動物なのです。
また、VCA Animal Hospitals(米国の動物病院グループ)の解説でも、呼吸器の感染症にかかった猫は嗅覚が低下するために食欲が落ちやすく、香りの立ちやすい食事が助けになることがあると案内されています。
つまり、鼻づまりの猫が食べないとき、その子は「わがままで食べない」のでも「食欲そのものが消えた」のでもなく、目の前のものが食べものだと認識しづらくなっていることがあります。だからこそ、香りを立てる・鼻の通りをよくするという工夫が、そのまま食事の助けになるのです。
あわせて、上部気道の感染症では口の中に潰瘍(かいよう)ができて食べること自体が痛くなる場合があることも、同センターは指摘しています。「においが分からない」と「口が痛い」が重なっていることもあるため、よだれや口臭、食べこぼしがないかもあわせて見てあげてください。
猫の鼻づまりの主な原因

鼻づまりの背景として、獣医学の資料では次のような原因が知られています。いずれも診断は動物病院でしかできませんが、「どのくらい急ぐか」を考えるうえで知っておくと役立ちます。
猫風邪(猫ヘルペスウイルス・猫カリシウイルス)
いわゆる「猫風邪」は、猫の鼻づまりでもっともよく挙げられる原因です。コーネル大学猫健康センターは、猫の上部気道感染症の主な病原体として猫ヘルペスウイルス(猫ウイルス性鼻気管炎)と猫カリシウイルスを挙げ、症状として目や鼻からの分泌物、くしゃみ、咳、結膜炎、口の中の潰瘍、元気消失、食欲不振を挙げています。VCA Animal Hospitalsの解説では、この2つのウイルスが猫の上部気道感染症の大半を占めるとされ、細菌(ボルデテラ、クラミジアなど)が関わることもあると案内されています。子猫や多頭飼育の環境で見られやすい一方、一度感染したウイルスが体内に残り、体調やストレスをきっかけに症状がぶり返す子もいるといわれます。
細菌の二次感染・慢性の鼻炎
MSD獣医マニュアル(メルク獣医マニュアル)は、猫の急性の鼻炎・副鼻腔炎ではウイルス感染がもっとも多く、そのあとに細菌の感染が続いて起こることが多いと説明しています。さらに、急性のウイルス性鼻炎のあとに慢性の鼻炎・副鼻腔炎が残ることは猫では珍しくないとも記載されています。「猫風邪は治ったはずなのに、くしゃみや鼻づまりだけがずっと続く」という子は、この慢性化が関わっていることがあります。膿のような鼻汁が続く場合は、細菌感染が関わっている可能性を含めて診てもらいましょう。
歯の根元のトラブル(歯周病・根尖膿瘍)
意外に思われるかもしれませんが、歯のトラブルが鼻の症状につながることもあります。MSD獣医マニュアルには、歯の根の先に膿がたまる「根尖膿瘍」が上あごの空洞(上顎洞)にまで広がると、鼻炎・副鼻腔炎を起こすことがあると記載されています。この場合は歯の痛みも重なるため、「においも分からず、噛むと痛い」という二重のつらさで食欲が落ちることがあります。口臭が強い、よだれが増えた、片側だけで噛む、といった様子があれば、口の中もあわせて診てもらってください。
鼻の中のできもの・ポリープなど
MSD獣医マニュアルでは、慢性的に続く鼻汁の性状が変わってくる場合、鼻の中のできもの(腫瘍)や真菌感染が背景にある可能性が示唆されるとしています。特に片側だけの鼻汁が長く続く、鼻血が混じる、顔つきが左右で変わってきたといったときは、早めの受診が安心です。高齢の猫でこうした様子が見られたときは、「年のせい」と考えずに一度相談してください。
アレルギーや乾燥など、環境が関わるもの
MSD獣医マニュアルは、花粉による季節性のもの、ハウスダストやカビによる通年性のものなど、アレルギーによる鼻炎・副鼻腔炎もあると説明しています。また、冬場のエアコンなどで室内が乾燥すると鼻の分泌物が固まりやすくなり、鼻の通りが悪くなることもあります。環境が関わっている場合は、加湿や掃除といった生活の見直しが助けになることがあります。
愛猫の年齢が上がってきて、鼻の症状以外にも食欲の変化が気になる方は、猫の食欲不振全般をまとめた記事もあわせて参考にしてください。
何日まで様子見?鼻の症状と食べ方でみる緊急度のめやす
工夫を試す前に、まず確認したいのが緊急度です。同じ「鼻づまりで食べない」でも、水が飲めているか、呼吸が苦しそうか、どのくらいの時間が経っているかで、対応の急ぎ具合は変わります。次の表と図で、いまの状況に近いところを確認してみてください。
| 愛猫の様子 | 緊急度 | 対応のめやす |
|---|---|---|
| 口を開けて呼吸している/呼吸が苦しそう | 高い | その日のうちに受診。夜間なら救急動物病院への相談も検討 |
| 水も飲まない/ぐったりして反応が鈍い | 高い | その日のうちに受診 |
| 丸1日(24時間)以上、まったく食べていない | やや高い | 翌日までに受診の相談を(猫は絶食に弱いため早めに) |
| 鼻血が出る/片側だけの鼻汁が続く/顔が腫れてきた | やや高い | 早めに受診し、鼻の中を診てもらう |
| 膿のような鼻汁・目やにが続く/鼻づまりが1週間以上おさまらない | 中 | 数日以内に受診し、原因を確認 |
| くしゃみ・鼻水はあるが元気で、水は飲めて少しは食べる | 低め | この記事の工夫を試しつつ観察。長引くようなら受診 |
猫は食べない状態が続くと、肝臓に脂肪がたまる「肝リピドーシス(脂肪肝)」を起こしやすいことが知られています。そのため、まったく食べない状態が丸1日以上続くときは受診を検討したいところです。子猫・シニア猫・持病のある子は体力の余裕が少ないため、より早めの判断が安心とされています。

これらはあくまで一般的なめやすです。同じ鼻づまりでも背景はさまざまで、最終的な判断は診察をした獣医師にしかできません。「いつもと違う」と感じたら、めやすにとらわれず、かかりつけの動物病院に電話で相談してみてください。
今日からできる、鼻づまりの猫のための食事とお世話の工夫

受診が必要なサインが見当たらないときは、鼻の通りをよくする工夫と、香りを立てる食事の工夫を組み合わせてみましょう。いずれも動物病院での治療に代わるものではありませんが、「においが分からなくて食べられない」状態を助ける手立てになります。
1鼻のまわりの分泌物をやさしく拭き取る
VCA Animal Hospitalsは、鼻水による刺激をやわらげるために、湿らせたティッシュや布で顔や目のまわりを拭いてあげるとよいと案内しています。乾いて固まった鼻汁は、ぬるま湯で湿らせてからそっとふやかして取ると、猫の負担が少なくすみます。ごしごしこすらず、押し当てるように拭いてあげてください。
2部屋の湿度を上げて、鼻の通りを助ける
同じくVCA Animal Hospitalsは、鼻や気道がつまっている猫には室内の加湿が助けになることがあるとし、湯気のこもった浴室に10〜15分ほど、1日に数回連れて行く方法を紹介しています。加湿器を使う場合は、猫が近づきすぎてやけどをしないよう置き場所に気をつけましょう。エアコンの風が直接当たる場所も避けてあげてください。
3人肌程度に温めて、香りを立たせる
食べものは温めると香りが立ちやすくなります。ウェットフードなら人肌程度に、ドライフードならぬるま湯を少しかけて温めると、においが届きやすくなります。熱すぎるとやけどの心配があるため、必ず人肌程度にとどめてください。電子レンジを使うときは加熱ムラができやすいので、よく混ぜて温度を確かめてから出しましょう。
4ウェットフードやふやかした食事に切り替える
VCA Animal Hospitalsは、呼吸器の感染症で嗅覚が落ちている猫には、少し温めた嗜好性の高いウェットフードが食欲の助けになることがあると案内しています。ドライフードしか用意がない場合も、人肌程度のぬるま湯で5〜10分ふやかせば、香りが立って食べやすくなります。熱湯は栄養素を壊しやすいため避けましょう。水分も一緒にとれるのは、ウェットやふやかし食のうれしいところです。
5少量ずつ、回数を分けて出す
鼻がつまっていると、食べながら息をするのがつらく、一度にたくさんは食べられないことがあります。1回の量を少なめにして回数を分けると、1日のトータルでは食べられることがあります。出しっぱなしにすると香りが飛んで乾いてしまうため、食べ残しは早めに下げ、そのつど温め直して出してあげてください。
6静かで暖かい場所に、水と食事を近づける
鼻がつらいときは動くのもおっくうになりがちです。寝床のそばに水と食器を置き、静かで暖かい場所で食べられるようにしてあげましょう。体が冷えると鼻の症状もつらくなりやすいため、毛布などで暖かく整えてあげるのもおすすめです。
これらを試してもまったく食べない状態が続く場合は、無理に口へ運ぼうとせず受診を優先してください。強制給餌が必要かどうかも含め、その子に合った方法は獣医師と相談して決めるのが安心です。
フードを見直す|香りが立ちやすい選び方とおすすめ

工夫をしても食いつきが戻らないとき、いま与えているフードの香りが愛猫に届きにくくなっている可能性もあります。鼻づまりの子の食事を選ぶときは、次の点を目安にすると考えやすくなります。
- 香りの立ちやすさ:魚や肉など動物性の原材料を主原料にしたフードは、温めたときに香りが立ちやすい傾向があります
- ふやかしやすさ・ウェットにできるか:ぬるま湯でふやかしてウェット状にできると、香りと水分を同時に補えます
- 粒の大きさ・食べやすさ:鼻がつまって息継ぎがつらい子には、小粒でひと口が軽いものが食べやすいことがあります
- 香料に頼らない設計:素材そのものの香りで食欲を引き出す設計かどうかも、選ぶときの視点になります
ここでは、素材の香りを大切に作られた猫向けのドライフードを2種類紹介します。いずれも当メディア編集部が各公式サイトの情報を調査してまとめたものです。フードは体質により合う・合わないがあるため、切り替えは少量ずつ試すことを前提にご覧ください。持病がある子や治療中の子は、必ずかかりつけの獣医師に相談してから選んでください。なお、フードはあくまで食事の工夫であり、鼻づまりそのものの治療ではありません。
| フード名 | タイプ | 特徴 | こんな子に |
|---|---|---|---|
| モグニャン | ドライ(小粒・ふやかし可) | 白身魚を主原料にしたグレインフリー | 魚の香りが好き・温めて香りを立てたい子 |
| アランズナチュラルキャットフード | ドライ(ふやかし可) | チキン&ターキー中心の自然素材・香料不使用 | 肉の香りが好き・原材料をシンプルにしたい子 |
モグニャン

モグニャンは、白身魚を主原料に使ったグレインフリー(穀物不使用)のドライフードです。公式サイトでは「香りと味わいを追求したスペシャルフード」として案内されており、魚由来の香りが立ちやすいのが特徴です。粒は小さめでぬるま湯でふやかしやすく、鼻がつまっている子に「温めて香りを立てる」使い方と相性が期待できるタイプといえます。全猫種・全年齢に対応した栄養バランスで設計されています。ただし香りの好みや体に合うかどうかには個体差があるため、切り替えは今までのフードに少量ずつ混ぜ、1〜2週間かけて行いましょう。
モグニャンの基本情報
| 主原料 | 白身魚(グレインフリー) |
| タイプ | ドライ(小粒) |
| 対象 | 全猫種・全年齢 |
| 内容量 | 1.5kg |
| 原産国 | イギリス(執筆時点) |
アランズナチュラルキャットフード

アランズナチュラルキャットフードは、チキンとターキーを中心に、自然素材にこだわって作られたグレインフリーのドライフードです。公式サイトでは「自然素材にこだわった」フードとして案内され、香料・着色料は不使用で、素材そのものの香りを生かした設計とされています。イギリス製造で、全年齢の猫に対応しています。魚よりも肉の香りに反応しやすい子や、原材料をできるだけシンプルにしたい飼い主さんに検討されることの多いフードです。こちらも体に合うかどうかは個体差があるため、少量ずつ様子を見ながら切り替えてください。
アランズナチュラルキャットフードの基本情報
| 主原料 | チキン・ターキー(グレインフリー) |
| タイプ | ドライ |
| 対象 | 全猫種・全年齢 |
| 内容量 | 1.5kg |
| 添加物 | 香料・着色料不使用(執筆時点) |
どちらも「これを与えれば必ず食べる」というものではなく、あくまで選択肢の一つです。フードを変えても食べない、鼻の症状が続く、というときは、フード選び以前に治療が必要なこともあります。次の章で、受診の目安を確認しておきましょう。
動物病院に相談する目安

食事の工夫は、あくまで「食べられる状態の子」を後押しするためのものです。次のような様子が見られるときは、工夫より先に動物病院への相談・受診を優先してください。
| こんなときは受診を | 考えられること(一般的な例) |
|---|---|
| 口を開けて呼吸している/呼吸が苦しそう | 鼻づまりが強い、あるいは気道・肺の不調のことがある |
| 丸1日以上まったく食べず、水も飲まない | 絶食による体調悪化のリスク。猫は特に注意が必要とされる |
| 膿のような鼻汁・目やにが続く | 細菌の二次感染や慢性の鼻炎が関わることがある |
| 片側だけの鼻汁が続く/鼻血が出る/顔が腫れる | 鼻の中のできものや真菌感染などが背景にあることがある |
| 口臭・よだれが強い/片側だけで噛む | 歯周病や歯の根の膿瘍が鼻に及んでいることがある |
| 体重が目に見えて減ってきた | 慢性の病気が隠れていることがある |
これらはあくまで一般的な例で、実際の原因は診察や検査をしてみないと分かりません。鼻づまりの治療には、原因に応じて点鼻や吸入、抗菌薬、鼻の洗浄などが選ばれることがあり、市販の人用の風邪薬や点鼻薬を猫に使うのは絶対に避けてください。迷ったら、まずはかかりつけの動物病院に電話で相談を。受診が必要かどうかを教えてもらえます。
看取り期の「食べない」との向き合い方

ここまで「食べてもらうための工夫」を中心にお伝えしてきました。けれど、高齢や病気が進んだ子で、鼻の中のできものなど治療の難しい原因が見つかったとき、「これ以上は積極的な治療をしない」と決めて、穏やかに寄り添う時間を選ぶご家族もいらっしゃいます。終末期に食欲が落ちていくことは、命の自然な過程の一部でもあります。
そうしたとき、無理に口へ運ぶことが、かえって愛猫の負担になることもあります。「食べさせること」だけがやさしさではなく、そばにいて安心できる環境を整えることも、大切な寄り添い方です。どこまで手を尽くすか、いつ受診するか、看取りをどう迎えるか——正解は一つではありません。かかりつけの獣医師と相談しながら、そのご家族にとって納得のいく形を選んでいただければと思います。
好きだったもののにおいをそっと近づけてみる、鼻のまわりを湿らせた布で拭いてあげる、水を口元に運ぶ、体をやさしくさすってあげる。食べる量が減っても、そうした小さな時間の一つひとつが、愛猫にとっての安心になります。ご家族が「できることをした」と思える過ごし方が、いちばん大切です。
よくある質問
※本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状や体調の変化があるときは、自己判断せず動物病院にご相談ください。フードは体質により合わない場合があります。
まとめ|「におい」が戻れば、食欲も戻ってくることがあります
猫は、においで食欲が立つ動物です。だからこそ鼻づまりは、そのまま「食べない」に直結します。まずは、口を開けた呼吸・水も飲まない・ぐったり・丸1日以上食べない、といった緊急度の高いサインがないかを確認してください。そのうえで、鼻のまわりを拭く、湿度を上げる、人肌程度に温める、ふやかす・ウェットにするといった工夫を重ね、それでも戻らないときは受診とフードの見直しを検討する——この順番で、落ち着いて向き合っていきましょう。
鼻の通りが戻れば、食欲もふっと戻ってくることがあります。焦らず、けれど見逃さず、愛猫の小さな変化にそっと目を向けてあげてください。あなたと愛猫のもとに、また穏やかな食事の時間が戻ってきますように。