死の前兆・余命 看取り・終末期

猫の老衰でみられる変化|食べない・眠ってばかり・体温が下がるときに家でできること

ごはんを残すようになった。日なたで眠っている時間がずいぶん長くなった。あんなに念入りだった毛づくろいを、いつからかしなくなった。抱き上げると、以前より体が軽く、そして少しひんやりしている——。長く一緒に暮らしてきた猫にそんな変化が重なると、「老衰なのだろうか」という言葉が、静かに頭をよぎります。

その変化を前にして、多くの飼い主さんが同時に抱えるのは「では、あとどのくらいなのだろう」という問いと、「もっと早く気づいてあげられたのではないか」という後悔です。けれど、老いの進み方には大きな個体差があり、日数を言い当てられるものではありません。そして、変化に気づいて調べているいまこの時間が、すでにその子のためのお世話の一部です。

この記事では、猫の老衰の時期に見られるとされる体と暮らしの変化、その背景として獣医療の解説で言われていること、動物病院に連絡したい目安、そしてご自宅でできる保温・水分・寝床・排泄まわりのお世話を、静かに整理しました。診断や余命の判断はできませんので、気になることは必ずかかりつけの動物病院にご相談ください。

飼い主さん
17歳の猫です。ごはんの量が減って、一日じゅう眠っています。毛づくろいもしなくなりました。老衰なのでしょうか。
編集部
どれも老いの時期に見られるとされる変化ではありますが、同じ変化が病気で起きていることも少なくありません。老衰かどうかを見分けられるのは診察をした獣医師だけですので、「歳だから」で終わらせず、一度診ていただくことをおすすめします。そのうえで、おうちでできる保温や水分のお世話を整えていきましょう。

一言でいうと、食べる量が減る・眠る時間が増える・毛づくろいをしなくなる・体温が下がるといった変化は、老いにともなって起こるとされているものですが、同じ変化が病気で起きていることもあります。だからこそ「老衰だから何もしなくていい」とは考えず、受診で確かめたうえで、おうちでの寄り添い方を整えていくことが大切とされています。

猫の老衰の時期に見られるとされる変化

吉田動物病院の西岡優子獣医師が監修した解説では、猫の老衰のサインとして、運動能力の低下、睡眠時間の増加、毛並みの変化、性格の変化、排泄の変化、五感の衰え、食欲の低下などが挙げられています。あらわれる順番も進み方も個体差が大きく、すべてが起こるわけでもありません。ここでは、ご家庭で気づかれやすい4つの変化を取り上げます。

猫の老衰の時期に見られるとされる4つの変化を整理した図解
老衰の時期に見られるとされる猫の変化(当メディア編集部作成)

食べる量が少しずつ減る

加齢とともに消化する力が落ち、運動量も減っていくことにともなって、食欲が下がっていくとされています。同じフードを残すようになったり、一度に食べきれずに何回かに分けて食べるようになったりするのは、よく見られる変化です。ただし、口内炎や歯周病の痛み、鼻づまりによるにおいの感じにくさなど、治療で楽になる原因が隠れていることもあると説明されています。「食が細くなった」を老いのせいだけにしないことが、この時期のいちばん大切な線引きです。

眠っている時間が増える

筋力が落ちて体のしなやかさが失われると、動きが鈍くなり、運動量も下がっていくとされています。その結果として眠る時間が増え、遊びを要求したり甘えに来たりする回数が減っていくと説明されています。呼んでも来ない、窓辺から動かないという様子は、気持ちが離れたのではなく、体力の変化としてあらわれているものです。

毛づくろいをしなくなる

猫にとって毛づくろいは、体を清潔に保つと同時に気持ちを落ち着ける行為でもあります。年齢を重ねると、体をねじる姿勢がつらくなることや、必要な栄養が行き渡りにくくなることから、毛づくろいの回数が減り、毛並みや毛ヅヤが乱れてくるとされています。毛玉ができやすくなり、おしりまわりが汚れたままになることもあります。怠けているわけでも、飼い主さんのお世話が足りないわけでもありません。

体温が下がる・寒がるようになる

猫の平熱はおおむね38〜39度前後とされ、シニア期には代謝が落ちることで、成猫より少し低めになることがあると説明されています。終末期が近づくと体温が下がる傾向があるとも言われており、日なたや暖かい場所から動かない、体を丸めて縮こまっているといった様子は、寒さを感じているサインとして受け止められます。ただし、体温が大きく下がっているときは体調の変化を示していることがあるため、後述の連絡の目安をご覧ください。

老衰といわれる変化の背景と、家での受け止め方【早見表】

それぞれの変化について、獣医療の解説で背景として挙げられていることと、ご自宅での受け止め方をまとめました。原因を特定できるのは診察をした獣医師だけですので、気持ちを整理し、診察のときに伝える材料をつくるための目安としてご覧ください。

見られる変化 背景として言われていること ご自宅での受け止め方
食べる量が減る 消化する力や運動量の低下。歯や口の痛み、においの感じにくさが重なることもある 温めて香りを立てる。食べた量と時間を短く記録する
眠る時間が増える 筋力や体のしなやかさが落ち、動きがゆるやかになること 静かで室温の安定した場所に寝床を移す
毛づくろいをしなくなる 体をねじる姿勢のつらさ、栄養が行き渡りにくくなること 蒸しタオルややわらかいブラシでそっと手伝う
体温が下がる・寒がる 代謝が落ち、体を温める力が弱まっていくこと 低温やけどを避けながら、逃げ場のある保温をする
粗相が増える トイレまでの移動のつらさ、居場所やトイレの位置がわかりにくくなること トイレを近くに増やす。叱らず、汚れをためない
窓辺のやわらかな光の中で静かに時間が流れる様子
写真はイメージです

「老衰だから」で片づけたくない、見逃したくないサイン

老衰という言葉には、どこか「何もできることはない」という響きがあります。けれど獣医療の解説では、高齢の猫に食べない・飲まない・歩けないといった様子が見られたときは、まず診察を受けて病気でないかを調べるようすすめられています。老衰ではなく病気が原因であれば、治療によって回復したり、症状を軽くしたり進行をゆるやかにできる可能性があるためです。

とくに猫では、食べない時間が長引くこと自体がリスクとして知られています。オダガワ動物病院の解説では、食べない時間が長引くと「肝リピドーシス(脂肪肝)」という命に関わる病気を引き起こすことがあり、数日食べないだけで発症する可能性があると説明されています。同院では、高齢猫(7歳以上)は丸1日食べない場合に受診を検討し、元気がない場合はすぐに受診をと案内されています。獣医師監修の別の解説でも、様子を見てよいのは1日(24時間)までとされています。

「歳だから食べないのだろう」と待つ時間が、いちばん惜しい時間になることがあります。食べない・飲まないが1日続いたら、それだけで連絡する理由になります。

動物病院で診察を受ける猫にそっと手を添える様子
写真はイメージです

動物病院に連絡したい目安

連絡の目安を、緊急度の高いものから3つに分けて整理しました。いずれも受診を判断するためのものではなく、相談のきっかけとしての目安です。夜間や休診日でも、まず電話で状況を伝えれば、連れて行くべきか、往診という選択肢があるかを含めて教えてもらえます。

老衰の時期に猫を動物病院へ連絡する目安を緊急度別に整理した図解
老衰の時期に動物病院へ連絡したいときの目安(当メディア編集部作成)

猫はふだん鼻で呼吸をする動物のため、口を開けて呼吸をしていること自体が異常のサインである可能性が高く、すぐに受診すべき状態として説明されています。ノヤ動物病院の解説では、口を開けて呼吸をする、舌の色が紫色になる、お腹を大きく動かしながら呼吸をするといった様子が挙げられ、舌の色が変わっている場合は体の中の酸素が足りていない危険な状態として、すぐに受診するよう案内されています。

体温については、猫の平熱を37.7〜39.2度前後(年齢によって変動あり)とし、34度以下はとても危険な状態と説明している獣医師の解説があります。ご自宅で正確に測るには直腸で測る必要があり、弱っている子には負担になりますので、無理に測るよりも「体を触ると冷たい」「毛布に入れても温まらない」といった様子を伝えるだけで十分です。

そして、緩和ケアは治療をあきらめてから始めるものではなく、痛みや気持ち悪さをやわらげ、毎日を穏やかに過ごせるようにするためのケアとして説明されています。「どうすればこの子が楽に過ごせますか」という聞き方であれば、いまの体の状態に合った方法を一緒に考えてもらえます。迷ったときは、電話で相談するだけでも構いません。

おうちでできる、老衰の時期の寄り添い方

アニコム損害保険の「みんなのどうぶつ病気大百科」では、自宅で行うターミナルケアとして、食事のサポート、寝床の工夫、排泄の介助、体の清潔を保つことが紹介されています。ここでは、道具をそろえればすぐ始められることを中心にまとめました。皮下点滴や圧迫排尿など処置をともなうケアは、必ずかかりつけの獣医師の指導を受けてから行ってください。

1寝床を、静かで室温の安定した場所に整える

排泄や食事の介助がしやすく、エアコンの風が直接当たらず、一日を通して室温がほぼ安定している場所がよいとされています。硬すぎず軟らかすぎない、体圧を分散するマットを選び、その上に吸収性と速乾性のある素材(おねしょシーツやバスタオル)を重ねると、汚れた面だけを手早く替えられます。飼い主さんが世話をしやすく、見守れる場所であることも大切な条件です。

2低温やけどを避けながら保温する

寒がる様子があるときは保温が助けになりますが、動けない子ほど低温やけどのリスクが高くなります。つだ動物病院の解説では、44度で3〜4時間、46度で1時間程度、50度では30分ほどの接触でもやけどの可能性があるとされ、タオルやブランケットを敷いて熱をやわらげること、4時間以上の連続使用を避けることが挙げられています。湯たんぽやヒーターは必ず厚手のカバーで包み、「熱い」と感じたときに自分で離れられるよう、温かい場所と涼しい場所の両方を用意してください。ときどき接する面を変え、皮膚の状態も見てあげましょう。

3食べやすいかたち・においで、食事を差し出す

電子レンジで温めたり、60度くらいのお湯をかけたりして食事のにおいを立たせる方法が紹介されています。ドライフードをぬるま湯でふやかす、ウェットフードに切り替える、高さのある台に皿を置く、口元まで運んであげるといった工夫も挙げられています。一方で、食べたくないときに強制的に口の中に入れられることがストレスになる場合もあると説明されています。強制給餌を行うかどうかは、その子の状態によって答えが変わりますので、必ず獣医師に相談してから判断してください。

4水分をとりやすい環境をつくる

水飲み場を複数の場所に置く、自動循環型の給水器を使う、ウェットフードやスープ状のものから水分をとれるようにするといった方法が紹介されています。寝床のすぐそばにも浅めの器を置いておくと、起き上がらなくても口をつけられます。シリンジ(注射器型の器具)で口に流し入れる方法は、むせて気管に入るおそれがあるため、行う前に獣医師に方法を教わってください。

5トイレまでの道のりを短く、やさしくする

トイレは行きやすい場所に置き、途中の障害物を減らします。腰が弱ってきた子には滑り止めマットを敷き、ふちの高いトイレは低いものに替えるかスロープをつけると出入りが楽になります。間に合わないことが増えたら、赤ちゃん用のおねしょシーツとトイレシーツを組み合わせて寝床に敷いておく方法も紹介されています。粗相はしつけの問題ではありませんので、叱る必要はまったくありません。

6毛づくろいの代わりに、体を清潔に保つ

排泄のあとはできるだけ早くシーツやオムツを取り替え、おしりまわりの毛はお手入れしやすい長さにカットしておくとよいとされています。汚れは強くこすらず、ぬるま湯で湿らせたガーゼややわらかい布で押さえるように拭き取ります。目やには湿らせたガーゼで、食後の口まわりは湿ったガーゼで残った食べかすを拭き取ります。シャンプーはこの時期の体に負担になる場合があるため、蒸しタオルで拭く方法に切り替え、行う場合は獣医師に相談してください。ブラッシングは、毛並みを整えるだけでなく、触れ合う時間そのものになります。

7寝返りと、その日の様子の記録

寝たきりに近い状態になると、体重がかかり続ける場所の血流が滞り、床ずれ(褥瘡)が起こりやすくなるとされています。2〜3時間おきに体の向きを変え、皮膚に赤みがないかを見ること、やさしいマッサージで血行を促すことが予防として挙げられています。あわせて、食べた量・飲んだ量・排泄の有無・眠っている時間を一行だけ書き残しておくと、診察のときに「一昨日から水しか口にしていない」と正確に伝えられます。

毛布の上でやすむ猫の前足にそっと手を添える様子
写真はイメージです

「もっと早く気づいていれば」と、ご自分を責めないでください

老衰の変化に気づいたとき、多くの飼い主さんが真っ先に思い浮かべるのは「もっと早く気づいていれば」という言葉です。けれど、老いによる体の変化は、飼い主さんの愛情や努力の量で決まるものではありません。フードを変えたから、健康診断の間隔があいたから、去年の冬に寒い思いをさせたから——そう思えてしまう出来事は、たいてい原因ではなく、同じ時期にたまたま重なった別のことです。

猫はもともと、体調の悪さを隠す動物だとよく言われます。変化に気づきにくいのは、飼い主さんの注意が足りなかったからではなく、その子がそういう生き方をしてきたからでもあります。いま、寝床を替えて、ごはんを温めて、名前を呼んでくださっていること自体が、その子にとって十分なお世話です。

それでも気持ちが晴れないときは、次の診察でその不安をそのまま獣医師に話してみてください。経過を診てきた先生から、「あのときできることはしていましたよ」という言葉をもらえることがあります。ひとりで結論を出さないことが、いまはいちばん大切です。

うつむきながら愛猫のそばで静かに過ごす飼い主の様子
写真はイメージです

看取りの時間と、飼い主さん自身のこと

介護の時間は、夜中も含めて途切れなく続きます。眠れない日が重なると、判断する力も、やさしくいる力も少しずつ削られていきます。これは気持ちの弱さではなく、体が限界を知らせているだけです。ご家族で交代する、日中だけペットシッターや預かりサービスに頼る、往診に対応している動物病院を調べておくなど、頼れる先をひとつ確保しておくことも、その子のためのケアの一部です

この時期には、どこまでの医療を望むか、痛みをやわらげることを優先するか、安楽死という選択をどう考えるかといった、答えのない問いに向き合うこともあります。どの答えを選んでも、選ばなくても、責められることではありません。かかりつけの獣医師と、その子の体の状態を確かめながら一緒に決めていく事柄です。

そして、そのときが来たあとに何をすればよいのかを、少しだけ先に知っておくことも、心の支えになります。慌ただしさのなかで判断せずにすむよう、お別れの流れは静かなうちに目を通しておかれると安心です。

お別れのあとに訪れる気持ちの揺れは、悲しみだけでなく、戸惑いや後悔、怒りといったさまざまなかたちであらわれるとされています。いまは想像したくないかもしれませんが、そういうものだと知っているだけで、あとから自分を責めずにすむことがあります。

やわらかな光のなかに静かに置かれた花の様子
写真はイメージです

よくある質問

Q老衰なのか病気なのかは、家で見分けられますか?

Aご家庭で見分けることは難しいとされています。獣医師監修の解説でも、老猫に見られるさまざまな変化が単なる老化現象なのか、ほかの病気が潜んでいるのかを飼い主さんだけで判断することは難しいと説明されており、定期的な診察がすすめられています。老衰ではなく病気であれば、治療によって症状が軽くなる可能性もあります。「歳だから」で終わらせず、一度診ていただくのが安心です。

Qごはんを食べないとき、どのくらい様子を見ていいですか?

A高齢の猫では、丸1日(24時間)ほとんど食べていない時点で受診を検討するようすすめられています。元気がない、嘔吐や下痢をともなう、水も飲まないといった様子があれば、1日を待たずにご連絡ください。猫は食べない時間が長引くと肝リピドーシス(脂肪肝)という命に関わる状態を起こすことがあると説明されており、待つことがそのままリスクになる場合があります。

Q無理にでも食べさせたほうがいいのでしょうか?

A一律に「そうしたほうがよい」とは言えません。ターミナルケアの解説では、食べたくないときに強制的に食事を口の中に入れられることがストレスになる場合もあると説明されています。一方で、食べない時間が長引くこと自体のリスクもあります。温めて香りを立てる、口元まで運ぶといった工夫を試したうえで、強制給餌や皮下点滴を行うかどうかは、その子の体の状態を診ている獣医師と相談して決めてください。

Q体が冷たいとき、どう温めればよいですか?

A湯たんぽやペット用ヒーターを使う場合は、厚手のカバーやタオルで包み、直接肌に触れさせないようにします。動けない子ほど低温やけどのリスクが高いため、長時間同じ面が接したままにならないよう、ときどき向きを変えて皮膚も確かめてください。温かい場所と涼しい場所の両方をつくり、自分で移動できる子には選べるようにしておきます。体が冷たく起き上がれない、毛布に入れても温まらないというときは、保温だけで様子を見ずに動物病院へご連絡ください。

※本記事は一般的な情報提供が目的で、診断・治療の代わりではありません。気になる症状は動物病院にご相談ください。

まとめ

食べる量が減る、眠る時間が増える、毛づくろいをしなくなる、体温が下がる。猫の老衰の時期に見られるとされる変化は、どれも体の力がゆっくり弱まっていく過程で起こるものとして説明されています。進み方には大きな個体差があり、残された時間を日数で言い当てられるものではありません。

そのうえで、同じ変化が病気によって起きていることもあります。とくに丸1日食べない・飲まない、口を開けて呼吸をする、歯ぐきや舌の色が白い・紫っぽい、呼びかけへの反応が鈍いといった様子は、様子を見ずに動物病院へ連絡したいサインとして挙げられています。判断はいつも、診察をした獣医師のものです。

寝床を整え、ごはんを温め、体をそっと拭いて、名前を呼ぶ。その繰り返しのなかに、その子が受け取っているものがきっとあります。残された時間が、おふたりにとって穏やかなものでありますように。

-死の前兆・余命, 看取り・終末期
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