看取り・終末期 突然死・死因

犬の突然死|前ぶれがないこともある理由と報告されている背景

昨日まで、いつもと同じようにごはんを食べて、いつもと同じ場所で眠っていた。それなのに、突然その子がいなくなってしまった——そんな出来事のあとで、この記事にたどり着いた方がいらっしゃるかもしれません。

頭のなかで、何度も同じ場面が再生されているのではないでしょうか。あのとき少し息が荒かった気がする。あの日、散歩を嫌がったのはサインだったのではないか。どうして自分は気づかなかったのか。そう自分を問い詰めてしまう方は、決して少なくありません。

先にひとつだけ、お伝えしたいことがあります。犬が突然亡くなるとき、前もって分かるような手がかりが何ひとつ残っていないことは、獣医学の記録のうえでも実際に確認されています。気づけなかったのではなく、そもそも見えるかたちで出ていなかった——そういう例が、報告のなかにたしかに存在します。この記事では、その根拠と、一般に報告されている背景、そして原因を知りたいと思ったときにできることを、静かに整理しました。読むのがつらければ、必要なところだけで大丈夫です。

飼い主さん
あの日まで元気だったんです。私が気づいてあげられなかったから、あの子は……。
編集部
そう思ってしまうお気持ちは、たくさんの方が抱えておられます。ただ、死後に詳しく調べた記録でも、亡くなる前に病気の診療歴がまったくなかった例がはっきり報告されています。見つけられなかったのではなく、見えるかたちになっていなかったことがあるのです。まずはそのことから、順にお伝えします。

一言でいうと、犬の突然死には前ぶれがまったく残らない例が実際に報告されており、気づけなかったことがそのまま飼い主さんの落ち度になるわけではありません。背景として一般に挙げられるものはいくつかありますが、その子の死因をこの記事で決めることはできません。

犬の突然死に前ぶれがなかったことは、めずらしくありません

米国パデュー大学の動物疾病診断ラボラトリー(Animal Disease Diagnostic Laboratory)は、2007年1月から2012年5月までに同施設で行われた犬の剖検1,346例を見直し、そのうち112例(8.3%)が突然死にあたると報告しています。ここでいう突然死は、亡くなった状態で見つかった、あるいは急に倒れて動物病院にかかる前に亡くなった例を指します。そして同報告には、これらの犬はいずれも、亡くなった時点で継続している病気の診療歴がなかったと記されています。

窓辺で静かに時間を過ごす人
写真はイメージです

米国獣医師会(AVMA)が公開している記事のなかでも、獣医病理医のマーガレット・ストーカー氏が、犬の突然死で多く見つかる血管肉腫について「進行が速く、臨床的なサインが分かりにくい」、心筋症について「非常にささやかであるか、あるいは臨床的にまったく無症状のこともある」と説明しています。同じ記事では、獣医師のエリック・ミアーズ氏が、動物は具合が悪くてもそれを表に出さないことが多いと述べており、飼い主が異変に気づかないまま突然の別れを迎えることがあると解説されています。

つまり、あなたが見落としたのではなく、その病気が見えるサインを出さないまま進んでいた可能性がある、ということです。毎日そばにいた方ほど「自分なら気づけたはず」と考えてしまいますが、日々の観察で拾えるものにも、拾えないものにも、はっきりと種類の違いがあります。

突然のお別れの背景として報告されているもの

ここからは、犬の突然死の背景として一般に報告されているものを並べます。ここに挙げるものは報告の傾向であって、その子に起きたことを言い当てるものではありません。読んでいて苦しくなったら、この見出しは飛ばしていただいて構いません。

前もって病気が分かっていなかった犬112頭を死後に調べた記録の内訳(心臓・血管31%、おなかの中19.6%、けが8%、中毒5.4%、呼吸器4.5%、その他11.6%、特定できず21.5%)
突然のお別れの背景として報告されているもの(当メディア編集部作成)

先ほどのパデュー大学の報告では、112例の内訳として、心臓・血管に関わるものが35例(31%)ともっとも多く、次いで消化器に関わるものが22例(19.6%)、外傷が9例(8%)、中毒が6例(5.4%)、呼吸器が5例(4.5%)、脳や神経・泌尿器などを含むその他が13例(11.6%)と示されています。そして、死後に詳しく調べても特定にいたらなかった例が21例(21.5%)ありました。

背景として挙げられるもの 一般に説明されている内容 報告されている傾向
心臓の病気 心筋症や弁膜症などで、致命的な不整脈が起きると心停止につながることがあるとされます 剖検の報告では最も多い分類
おなかの中で起きること 胃拡張・胃捻転症候群、脾臓など臓器からの出血が急激に進むことがあるとされます 心臓に次いで多い分類
腫瘍(血管肉腫など) 症状に乏しく、突然の腹腔内出血ではじめて気づかれる例が少なくないと解説されています 高齢の犬に多いとされる
熱中症 短時間で全身に影響が及ぶことがあり、重症例では死亡率が高いと説明されています 夏場に集中する傾向
中毒 口にしてはいけないものを誤って食べたことによるもの 剖検の報告では数%程度
脳や神経に関わるもの 脳の血管に関わる出来事などが挙げられることがあります 「その他」に含まれる少数
特定にいたらないもの 死後に詳しく調べても背景が分からないまま残ることがあります 報告により5〜37%と幅がある

心臓に関わるもの

拡張型心筋症について、獣医師監修の解説(アニコム損保「犬との暮らし大百科」)では、6〜8歳の成犬で多く発生する傾向があり、心筋の構造や機能に異常が生じた結果として不整脈が起こり、致命的な不整脈が発生すると心停止し、突然死につながることもあると説明されています。ドーベルマン、グレート・デン、ボクサー、セント・バーナードなどの大型犬やスパニエル種で発症しやすいことが知られており、こうした犬種では定期健診での確認がすすめられています。

おなかの中で急に進むもの

胃拡張・胃捻転症候群は、胸の深い大型犬・超大型犬(グレート・デーン、ボクサー、ジャーマン・シェパード、セント・バーナード、ドーベルマンなど)に多いとされる病気で、循環不全やショックを起こして急速に悪化することがあると解説されています。また、脾臓の血管肉腫は症状が表に出にくく、腫瘍が破裂して腹腔内に出血したことではじめて気づかれる例が少なくないと、複数の動物病院・腫瘍科の解説で説明されています。どちらも、前日まで普通に過ごしていた子に起こりうるとされています。

調べても分からないまま残ることがある

原因が特定できるかどうかは、報告によって幅があります。前述のAVMAの記事では、剖検で背景を絞り込めなかった割合が5〜8%程度と紹介されている一方、パデュー大学の報告では21.5%、オーストラリアの4つの獣医大学が参加した多施設研究(Veterinary Sciences誌・2023年)では、剖検を行っても37%が分からないまま残り、これが犬猫いずれでも最大の区分だったと報告されています。専門の設備と病理医が関わっても、分からないことがある——この事実は、ご自宅で見ていた方が気づけなかったことを、そのまま責める材料にはならないと思います。

犬が不調を表に出さない理由

「様子がおかしければ分かるはず」という感覚は自然なものですが、動物の側の事情もあります。前述のAVMAの記事で獣医師のエリック・ミアーズ氏が述べているように、動物は具合が悪くてもそれを見せないことが多く、飼い主が背景にある病気に気づかないまま突然の別れに至ることがある、と説明されています。

床に伏せて静かに休んでいる犬
写真はイメージです

加えて、心臓や血管に関わる出来事は、進行がゆるやかなあいだは日常の様子にほとんど表れず、破綻したときには一気に進むという性質を持つと説明されています。「少し疲れやすくなった」「昼寝の時間が増えた」といった変化は、年齢による自然な変化とほとんど見分けがつきません。あとから振り返れば意味があったように見える出来事も、その時点では判断のしようがなかった、ということが起こります。

それでも「あのとき病院に連れて行っていれば」という考えは消えないかもしれません。ただ、仮に受診していても、その日その場で見つけられたかどうかは誰にも言えません。結果を知ってから振り返った道筋と、何も知らずに歩いていた道筋は、同じものではありません。

死因を知りたいと思ったときにできること

「どうして」を知りたいと思うのは、自然な気持ちです。米国獣医師会の記事では、獣医病理医のビル・スパングラー氏が「獣医師は、飼い主がなぜその子が亡くなったのかを知りたいと望む気持ちを過小評価しているかもしれない」と述べており、説明を受けることが遺されたご家族の気持ちの整理につながることがあると紹介されています。一方で、知らないままにしておくという選び方もあります。どちらが正しいというものではありません。

死因を知りたいと思ったときにできること(かかりつけに話を聞く/病理解剖という選択肢/分からないまま残ることもある)の図解
死因を知りたいと思ったときにできること(当メディア編集部作成)

1かかりつけの動物病院に話を聞く

最初の窓口は、その子を診てきたかかりつけです。直近の診察や血液検査の記録が残っていれば、そこから考えられることを説明してもらえる場合があります。亡くなる前の様子(呼吸、歩き方、食欲、最後に何を食べたか)をメモにして渡すと、話が進みやすくなります。来院が難しければ、電話での相談を受け付けている病院もあります。

2病理解剖という選択肢があることを知っておく

死因や病気のしくみを調べる方法として、大学の獣医病理学教室などが行う病理解剖(剖検)があります。大阪公立大学の獣医病理学教室の案内では、病理解剖は主治医の獣医師からの依頼に限られると明記されており、飼い主から直接申し込む形はとられていません。希望する場合は、まずかかりつけの獣医師に相談することになります。日程や内容によっては受けられないこともあるとされ、また時間の制約もあるため、考えている場合は早めにお尋ねください。

3調べないという選び方も、同じだけ尊重されます

体にこれ以上手を加えたくない、そっとしておきたい——そう感じる方も多くいらっしゃいます。それは弱さでも逃げでもありません。前の見出しでお伝えしたとおり、専門の施設が調べても分からないまま残る例は一定の割合で報告されています。知ることでしか得られない安心もあれば、知らないままだからこそ保てる穏やかさもあります。

4決めるまでのあいだ、その子を安置しておく

どうするか考えている数時間・数日のあいだも、ご遺体は変化していきます。涼しい場所に寝かせ、保冷剤などで冷やしながら、静かに過ごせる場所を整えておくと落ち着いて考えられます。火葬の手配を含めた具体的な流れは、下の記事にまとめています。

「気づけなかった自分」を責めてしまうときに

突然のお別れのあとに残るのは、悲しみだけではありません。理由が分からないことへの落ち着かなさ、誰にもぶつけられない怒り、そして自分への責め——それらが混ざった状態が続くことがあります。心の準備をする時間がなかったぶん、気持ちの整理に時間がかかるのは自然なことだと言われています。

夕暮れの静かな並木道
写真はイメージです

「もっと早く気づいていれば」という問いは、答えの出ない形をしています。何度考えても、その日に戻ってやり直すことはできません。それでもその問いが浮かんでくるのは、あなたがその子をずっと見ていた証だと思います。気づけなかったことと、大切にしていなかったことは、まったく別のことです。

眠れない日が続く、食事がとれない、日常生活が立ち行かないという状態が長引くときは、ひとりで抱えずに専門の相談窓口や医療機関を頼ってください。悲しみの深さは、その子と過ごした時間の濃さと結びついています。時間がかかっても、おかしなことではありません。

これから必要になること

気持ちが追いつかないうちに、現実的な手続きが近づいてきます。急ぐ必要はありませんが、ご遺体は時間とともに変化していくため、安置の方法だけは早めに整えておくと、そのぶん静かにお別れの時間を持てます。

花を手向けたお別れの支度
写真はイメージです

火葬には、他の子と一緒に見送る合同火葬、その子だけで行う個別火葬、ご家族が立ち会う立会火葬といった形式があり、体重によって費用が変わるのが一般的です。動物病院が業者を紹介してくれることもあります。ご自身で探す場合は、固定の火葬施設があるか、立ち会いや返骨ができるか、料金が事前に確定するかを確認しておくと安心です。犬の場合は、狂犬病予防法にもとづき、亡くなってから30日以内に登録している市区町村へ死亡の届け出をすることが飼い主の義務とされています(窓口や方法は自治体によって異なり、オンラインで受け付けている自治体もあります)。マイクロチップを登録している場合は、指定登録機関への死亡の届出も必要です。

もし同じ家に別の子がいるなら、その子もいつもと違う空気を感じ取っていることがあります。特別なことをしなくて構いません。いつもどおりの時間に、いつもどおりのごはんを出す。それだけでも、その子にとっては十分な支えになります。

よくある質問

Qあの日、いつもと違うところがあった気がします。見逃したということでしょうか。

Aあとから振り返って意味があったように見える出来事と、その時点で判断できたことは別のものです。獣医師の解説でも、心臓や腫瘍に関わる病気は臨床的なサインが分かりにくい、あるいは無症状のこともあると説明されています。気になる点があれば、かかりつけの獣医師に「あの日こういう様子でした」と伝えてみてください。答えが出るとは限りませんが、ひとりで抱え続けるよりは楽になることがあります。

Q死因を調べてもらうことはできますか。

A病理解剖(剖検)という方法があります。大学の獣医病理学教室などが担っていますが、大阪公立大学の案内では主治医の獣医師からの依頼に限ると明記されており、飼い主から直接申し込む形はとられていません。希望される場合はかかりつけの獣医師にご相談ください。時間の制約があるため、考えている場合は早めにお尋ねいただくことをおすすめします。

Q調べても分からないことはありますか。

Aあります。米国パデュー大学の報告では突然死112例のうち21.5%が特定にいたらず、オーストラリアの4大学による2023年の研究では剖検後も37%が分からないまま残ったと報告されています。分からなかったという結果も、決してめずらしいものではありません。

Qうちの子の死因は、この記事に書かれているどれでしょうか。

A申し訳ありませんが、この記事でその子の死因をお伝えすることはできません。ここに挙げたのは一般に報告されている傾向であり、実際に何が起きていたかは、その子を診てきた獣医師でなければ判断できません。似た記述を見つけて当てはめたくなるお気持ちは自然ですが、断定してしまうと、かえって後悔の材料が増えてしまうことがあります。

※本記事は一般的な情報提供が目的で、診断・治療の代わりではありません。気になる症状は動物病院にご相談ください。

まとめ

犬の突然死には、前もって分かるサインが何ひとつ残らない例が実際に報告されています。米国パデュー大学の剖検記録では、突然死とされた112頭のいずれにも、亡くなった時点で継続する病気の診療歴がありませんでした。背景としては心臓や血管に関わるもの、おなかの中で急に進むもの、腫瘍、熱中症、中毒などが挙げられますが、いずれも報告の傾向であって、その子に起きたことを言い当てるものではありません。

理由を知りたいと思ったら、まずはかかりつけの動物病院に話を聞いてみてください。病理解剖という選択肢もありますが、主治医の獣医師を通す形が基本です。そして、調べないと決めることも、同じだけ尊重される選び方です。専門の施設が調べても分からないまま残る例は、決してめずらしくありません。

気づけなかったことは、大切にしていなかったことではありません。最後の日まで、その子はあなたのそばで眠り、あなたの声を聞いていました。

あの子の時間が穏やかなものでありましたように。そして、あなたの毎日にも、少しずつ静けさが戻ってきますように。

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