「亡くなったあとも、耳はしばらく聞こえている」——どこかでそんな話を目にして、この記事にたどり着いた方が多いのではないでしょうか。もしそれが本当なら、あのとき何と声をかければよかったのだろう。呼んであげればよかった。そう思って、胸が苦しくなっている方もいらっしゃると思います。
この言い伝えは、猫や犬にかぎらず、人の看取りの場でも古くから語られてきました。ただ、亡くなったあとに聞こえているかどうかを、確かめる方法は今のところありません。この記事では、その言い伝えがどこから来ているのか、人の医療で分かっていることは何かを、確認できた範囲だけで静かに整理します。そのうえで、今そばにいる猫ちゃんにしてあげられることを、あわてずに一つずつご案内します。どうか、ご無理のない範囲でお読みください。


一言でいうと、「亡くなったあとも耳は聞こえている」は昔から広く語られてきた言い伝えで、科学的に確かめられたものではありません。ただ、聞こえていないと証明されたわけでもなく、かけたい言葉があるなら、かけていいのだと思います。
「亡くなったあとも耳は聞こえている」という言い伝えについて
この話は、ペットの看取りにかぎった話ではありません。人の看取りの場でも、「耳は最後まで残る」「聴覚は最後に失われる」という言い方で、家族や医療者のあいだで長く語り継がれてきました。ペットの見送りについて書かれた記事や、葬儀に関わる方の言葉のなかにも、同じ表現がしばしば登場します。
ただ、それが「亡くなったあとも音が聞こえている」ことの証明として語られているわけではありません。心臓が止まり、呼吸が止まったあとの体で、音がどう受け止められているのか——あるいは受け止められていないのか——を確かめる方法は、編集部が調べたかぎりでは見当たりませんでした。本人(本猫)に尋ねることができない以上、これは確かめようのない領域にあります。
この記事では、確かめられないことを「そうです」とは書きません。同時に、「そんなことはありません」とも書きません。どちらも、根拠のないことを断定することになるからです。

人の医療で「聴覚は最後まで残る」と言われる背景
この言い伝えがここまで広まった背景には、人の終末期医療での知見と実践があります。ただし、そこで語られているのは「亡くなる前」——まだ息のある、意識が確認できない状態の話であって、亡くなったあとの話ではありません。ここは混同されやすいところなので、順番に整理します。
意識が確認できない状態でも、音への脳の反応が記録された研究がある
ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)の研究チームは、ホスピスの患者さんの脳波(EEG)を測定し、意識のある時期と、反応が見られなくなった時期とで、音の変化に対する脳の反応を比べました。その結果、反応が見られなくなった患者さんの多くにも、音の変化に対する脳の反応が記録されたと報告されています(Blundon ら、Scientific Reports、2020年)。
ただし、この研究には研究者自身が挙げている限界があります。脳波の記録が得られたのは5名で、大人数を対象にしたものではありません。また筆頭著者は、脳が音に反応していたとしても「それを記憶しているのか、声を聞き分けているのか、言葉を理解しているのかまでは分からない」という趣旨のコメントを残しています。「聞こえていた」と言い切れる段階ではない、ということです。
緩和ケアの現場で「声をかけてください」と伝えられる理由
終末期の医療やホスピスケアの現場では、ご家族に「そばで声をかけてあげてください」と伝えられることがあります。これは、聞こえていることが証明されているからというより、聞こえているかもしれない可能性を大切にし、同時にご家族自身がお別れの言葉を伝える時間を持てるようにするためという側面があります。
そして何より、これは人間の医療で語られている話です。猫や犬で同じ測定をした研究は、編集部が調べたかぎりでは見当たりませんでした。人で分かっていることを、そのまま動物に当てはめることはできません。

猫の場合|分かっていることと、分かっていないこと
生きているあいだの猫の聴覚が非常に優れていることは、よく知られています。人よりずっと高い音まで聞き取れること、耳を大きく動かして音のする方向を正確に捉えられることは、動物の感覚を扱った書籍や獣医療の解説でも共通して説明されています。飼い主さんの足音や声を聞き分けていた、というご経験のある方も多いと思います。
一方で、亡くなったあとの猫の耳がどうなっているのかについては、確かめられた情報がありません。聞こえていると書かれた資料も、聞こえていないと結論づけた資料も、信頼できる形では見つかりませんでした。分からない、というのが正直なところです。
「反応した」ように見えることがあるのはなぜか
亡くなったあとに、体がわずかに動いたり、口から空気が抜けるような音がしたり、まぶたや手足が動いたように見えることがあります。これらは、筋肉に残った反応や、体内の空気やガスが動くことによって起こると説明されており、意識が戻ったことを意味するものではないとされています。
ただし、亡くなった直後に見えることのすべてを、ご自身で判断する必要はありません。呼吸や心拍がはっきりしないけれど本当に息を引き取ったのか確信が持てない、というときは、かかりつけの動物病院に確認していただくのが確実です。特に冬場は、体温が下がって仮死のような状態になることもあるとされています。

今、そばでしてあげられること|声かけと安置の手順
聞こえているかどうかは分かりません。それでも、声をかけることに意味がないと決める根拠も、どこにもありません。名前を呼ぶこと、体をなでること、伝えたい言葉を伝えること。それは亡くなった子のためであると同時に、送る側であるご自身のための時間でもあります。どうか、その時間を惜しまないでください。

あわせて、お体を休ませてあげる準備も、少しずつで構いませんので進めてあげてください。死後硬直は亡くなってから2〜3時間ほどで、顎や手足の先から少しずつ始まるといわれています。硬直が進む前のほうが、姿勢を整えてあげやすくなります。
1名前を呼び、そっと体をなでる
いつもの呼び方で、いつもの声で構いません。好きだった場所をやさしくなでながら、伝えたい言葉があれば、そのまま伝えてあげてください。うまく言葉にならなくても、そばにいるだけで十分だと思います。
2目と口が開いていたら、そっと閉じる
指の腹でやさしく閉じてあげます。硬直が進むと閉じにくくなるため、早めのほうが整えやすいとされています。無理に力をかける必要はありません。
3体をきれいに拭き、姿勢を整える
ぬるま湯で湿らせたタオルで、体をやさしく拭いてあげます。汚れが出ている場合は、お尻や口元も静かに拭います。そのあと、手足を胸のほうへ軽く丸め、眠っているような姿勢に整えてあげてください。
4保冷して、涼しい場所に安置する
保冷剤や氷嚢をタオルで包み、首元・お腹・背中に当てます。箱やペットベッドにタオルを敷いて寝かせ、直射日光の当たらない涼しい部屋に安置します。保冷剤は溶けたら交換してください。
「声をかけてあげられなかった」と思っている方へ
亡くなった瞬間に立ち会えなかった。頭が真っ白で何も言えなかった。仕事に出ているあいだのことだった。動物病院で、最期は預けたままだった。——そうした状況で、ご自身を責めておられる方は少なくありません。
けれど、そのとき声をかけられなかったことが、何かを損なったと決まったわけではありません。聞こえていたかどうかが分からない以上、「間に合わなかった」も「間に合った」も、誰にも判定できないからです。分からないことを根拠に、ご自身を責める必要はないと、編集部は考えています。
そして、声をかけられる時間は、まだ終わっていません。今、お体のそばで名前を呼ぶこともできます。火葬までの時間に、伝えそびれた言葉を伝えることもできます。お骨になったあとや、写真の前でも構いません。手紙にしてもいいと思います。かけたい言葉があるなら、その言葉は、いつかけても遅くはありません。
気持ちの揺れが強い時期に、無理に「気持ちを整理しよう」としなくても大丈夫です。眠れない、食べられない、涙が止まらないといった状態が長く続くときは、お一人で抱えず、ペットロスの相談窓口や心療内科などの専門家に相談することも選択肢になります。

お別れの時間を持てる火葬の形式と、相談先
「もっと声をかけたい」「最後まで見送りたい」というお気持ちがあるなら、火葬の形式選びがそのまま、お別れの時間の長さに関わってきます。形式によって、そばにいられる時間もお骨の返却も変わるためです。主な形式を整理しました。
| 形式 | お別れ・立ち会い | お骨の返却 | こんな方に |
|---|---|---|---|
| 合同火葬 | 火葬には立ち会えないのが一般的 | 返骨なし(合同での埋葬・供養) | 費用を抑えたい方/お骨を持ち帰らない選択をされる方 |
| 個別一任火葬 | 火葬そのものは業者に任せる | あり | お骨は迎えたいが、火葬に立ち会うのはつらいという方 |
| 立会個別火葬 | 火葬の前後に立ち会い、お骨上げもできる | あり | 最後まで見送り、声をかける時間を持ちたい方 |
| 訪問火葬(移動火葬車) | 自宅前などで、形式に応じて立ち会える | 形式による | 移動が難しい方/自宅で見送りたい方 |
依頼先を選ぶときは、会社の所在地や固定の斎場があるか、立ち会いと返骨の可否、料金が事前に確定するかを、申し込みの前に必ず確認してください。この業界には、高額な追加請求などのトラブルが報じられた例もあります。電話で問い合わせたときの説明が明確かどうかも、判断材料になります。
\ 詳細・ご相談は公式サイトから /
24時間365日の受付で、お住まいの地域の提携業者を案内してもらえます。料金や立ち会いの可否は、申し込み前に確認してください

よくある質問
※本記事は一般的な情報提供が目的で、診断・治療の代わりではありません。気になる症状は動物病院にご相談ください。
まとめ
「亡くなったあとも耳は聞こえている」という言い伝えは、人の看取りの場でも長く語られてきたものですが、確かめる方法はありません。人の終末期については、意識が確認できない状態でも音への脳の反応が記録された研究がありますが、それは息のあるあいだの話であり、そのまま猫に当てはめられるものでもありません。
分からないことは、分からないままでいいのだと思います。確かなのは、名前を呼ぶことも、なでてあげることも、伝えたい言葉を伝えることも、今からできるということだけです。それは送り出す側にとっても、必要な時間です。
どうか、ご自身を責めないでください。あの子と過ごした日々が、静かなあたたかさとしてあなたのそばに残りますように。