いつも決まった時間に庭ですませていた子が、寝床でそのまま出してしまうようになった。ゆるい便が続いている。あるいは、もう何日も出ていない。——最期が近いかもしれないと感じている時期に、排泄の変化に気づいて不安になっている飼い主さんは少なくありません。
「昨日の食事がいけなかったのだろうか」「気づくのが遅かったのではないか」と、ご自分を責めてしまう方もいらっしゃいます。けれど、体の力が少しずつ弱まっていく過程で排泄が変わっていくことは、老いや病気にともなって起こるとされているもので、お世話の仕方が原因で起きるものではありません。
この記事では、犬の終末期に見られるとされる便の変化と、その背景として言われていること、動物病院に連絡したい目安、そしてご自宅でできるお世話を、獣医療の解説をもとに静かに整理しました。生々しい描写はできるだけ避け、いま手を動かすために必要なことだけをお伝えします。診断や余命の判断はできませんので、気になることは必ずかかりつけの動物病院にご相談ください。


一言でいうと、最期が近づくころの便の変化(下痢・失禁・出なくなる・亡くなる前後に出る)は、体の力が弱まる過程で起こるとされているもので、飼い主さんのお世話が原因ではありません。ただし、血が混じる・黒っぽい・水のような下痢が続くといった変化は別に考える必要があるため、動物病院への連絡の目安もあわせて整理しました。
犬の最期が近づくころに見られるとされる、うんちの変化
いぬのきもち獣医師相談室の岡本りさ先生が監修した解説では、死期が近づいたときに見られる一般的な変化のひとつとして「排泄のコントロールができなくなる」ことが挙げられています。あらわれ方や順番には大きな個体差があり、すべてが起きるわけでも、起きたから時期が決まるわけでもありません。

便がやわらかくなる・下痢が続く
腸の働きが落ちること、投薬や食べるものが変わること、水分のとり方が変わることなどにともなって、便がゆるくなることがあるとされています。回数が増えると、おしりまわりの皮膚が赤くなりやすくなるため、汚れをためないことがそのままお世話の中心になります。
寝たまま出てしまう(失禁・便もれ)
肛門や膀胱まわりの筋肉が衰えると、意識せずに出てしまうことがあるとされています。長く一緒に暮らしてきた子が寝床を汚してしまうと、飼い主さんのほうが動揺してしまいがちですが、これは我慢ができなくなったのではなく、力が入らなくなっているだけです。叱る必要はまったくありません。
量が減る・何日も出なくなる
食べる量・飲む量が減れば、便のもとになるものも減ります。動く時間が短くなることも、腸の動きがゆっくりになる一因として挙げられています。そのため、以前と同じ間隔で出ないこと自体は、必ずしも異常とは限らないとされています。ただし、いきんでも出ない・お腹が張るといった様子があるときは、後述の目安を参考にご相談ください。
亡くなる前後に便や尿が出ること
全身の力が抜けるときに、便や尿が出ることがあるとされています。これは苦しさのあらわれというより、体に起こる自然な変化として説明されているものです。もしそのときが来て驚かれたとしても、静かに拭いて差し上げれば大丈夫です。旅立ちのあとのお世話については、記事の終わりでも触れます。
排泄の変化の背景として言われていること【早見表】
それぞれの変化について、獣医療の解説で背景として挙げられていることと、ご自宅での受け止め方をまとめました。原因を特定できるのは診察をした獣医師だけですので、あくまで気持ちを整理するための目安としてご覧ください。
| 見られる変化 | 背景として言われていること | ご自宅での受け止め方 |
|---|---|---|
| やわらかい便・下痢 | 腸の働きの低下、投薬の影響、食べるものや水分のとり方の変化 | 汚れをためずに拭き取る。回数・色・状態を記録して受診時に伝える |
| 寝たまま出てしまう | 肛門・膀胱まわりの筋肉の衰え、寝ている時間が長くなること | 防水シーツやオムツで受け止める。しつけの問題として扱わない |
| 量が減る・出ない | 食事量・飲水量の減少、運動量の減少による腸の動きの緩やかさ | 最後に出た日を記録する。いきむのに出ないときは相談する |
| 血が混じる・黒っぽい | 消化管からの出血の可能性が指摘されている(自己判断はしない) | 様子を見ずに動物病院へ連絡する |
| 亡くなる前後に出る | 全身の力が抜けるときに起こるとされる自然な変化 | 静かに拭き、ペットシーツを敷いて安置の準備をする |

「気づいてあげられなかった」と、ご自分を責めないでください
便の変化に気づいたとき、多くの飼い主さんが真っ先に思い浮かべるのは「もっと早く気づいていれば」という言葉です。グリーフケアに携わる方々の解説でも、悲しみは悲しみだけでなく、戸惑い・後悔・自責といったさまざまなかたちであらわれると説明されています。つまり、自分を責める気持ちが湧いてくること自体が、深く愛してきたことのあらわれでもあります。
老いや病気による体の変化は、飼い主さんの愛情や努力の量で決まるものではありません。フードを変えたから、散歩に行けなかったから、気づくのが遅かったから——そう思えてしまう出来事は、たいてい原因ではなく、同じ時期にたまたま重なった別のことです。いま、汚れた寝床を替えて、体を拭いて、そばにいてくださっていること自体が、その子にとって十分なお世話です。
それでも気持ちが晴れないときは、次の診察でその不安をそのまま獣医師に話してみてください。「あのとき何かできたのでしょうか」という問いに、経過を診てきた先生から言葉をもらえることがあります。ひとりで結論を出さないことが、いまはいちばん大切です。

動物病院に連絡したい目安
終末期だからといって、すべてを「そういうもの」として受け止める必要はありません。動物病院の解説では、何度も下痢や血便が出る・元気がなくぐったりしている・嘔吐をともなう・便が黒くタール状である・高齢犬の下痢といった場合に、早めの受診がすすめられています(トレア動物病院の解説より)。便の色については、黒くタール状のものは胃や小腸など上部の消化管からの出血、赤い鮮血は大腸や肛門付近からの出血の可能性が指摘されています。

便が出ないときの目安は解説によって幅がありますが、獣医師監修の記事では、2〜3日以上出ていない・いきんでも出ない・お腹が張っているといった状態が続くようであれば、食欲の有無にかかわらず相談することがすすめられています。嘔吐をともなう場合は、より急ぐべきサインとして挙げられています。
また、排泄以外でも、呼吸が速い・立てない・意識がもうろうとしている・発作が起きている・歯ぐきなどの粘膜の色が白い、あるいは紫色といった変化は、様子を見ずに連絡したい症状として挙げられています(いぬのきもち獣医師相談室・岡本りさ先生監修の解説より)。迷ったときは、まず電話で相談するだけでも構いません。連れて行くべきかどうか、往診という選択肢があるかどうかも含めて教えてもらえます。
おうちでできる、排泄まわりのお世話
アニコム損害保険の「みんなのどうぶつ病気大百科」では、自宅で行うターミナルケアとして排泄の介助が紹介されています。ここでは、そのなかでも道具をそろえればすぐ始められることを中心にまとめます。処置をともなうケアは、必ずかかりつけの獣医師の指導を受けてから行ってください。
1防水シーツとペットシーツを重ねて敷く
おねしょシーツとトイレシーツを組み合わせて体の下に敷いたり、紙オムツを利用したりする方法が紹介されています。寝床を丸ごと洗い直す負担が減るだけで、飼い主さんの気持ちはずいぶん軽くなります。汚れた面だけを手早く交換できるよう、替えを手の届く場所にまとめて置いておくと安心です。
2出たあとはできるだけ早く取り替え、体を清潔に保つ
排泄のあとはなるべく早くオムツやシーツを取り換え、体を清潔に保つことが大切とされています。ぬるま湯で湿らせたやわらかい布やペット用の清拭シートで、こすらずに押さえるように拭き取ります。拭いたあとは水気を残さないよう、乾いた布でそっと押さえてください。
3おしりまわりの毛を短くしておく
汚れが毛にからまると、拭き取るたびに皮膚をこすることになります。おしり周りの毛を短くカットしておくとよいとされ、しっぽが長い子では粘着包帯などでしっぽを巻いておく方法も紹介されています。ご自宅で難しい場合は、通院時に相談してみてください。
4床ずれ(褥瘡)を防ぐ工夫をする
寝たきりの状態が続くと、体の同じ場所に体重がかかり続け、床ずれが起こりやすくなるとされています。体圧を分散するマットやクッションを使い、こまめに体の向きを変えること、寝床を乾いた状態に保つことが予防として挙げられています。向きを変える間隔や、すでに皮膚が赤くなっている場合の手当ては、体の状態によって変わるためかかりつけの獣医師にご相談ください。
5出た日・状態を短く記録しておく
最後に出た日、色、かたさ、回数を、カレンダーやスマートフォンのメモに一行だけ残しておきます。診察のときに口頭で思い出すのは難しいものですが、記録があれば「一昨日から水のような便が3回」と正確に伝えられます。写真を1枚撮っておくのも、色を伝えるうえで役に立ちます。
- 手が届く場所にまとめておくと楽になるもの → 防水シーツ・ペットシーツ・清拭シート・乾いたタオル・ゴミ袋
- 獣医師の指導のもとで行うもの → 圧迫排尿やカテーテルによる排尿、お腹のマッサージ、薬による調整

看取りの時間と、飼い主さん自身のこと
排泄のお世話は、夜中も含めて途切れなく続きます。眠れない日が重なると、判断する力も、やさしくいる力も少しずつ削られていきます。これは気持ちの弱さではなく、体が限界を知らせているだけです。ご家族で交代する、日中だけペットシッターや預かりサービスを頼る、往診に対応している動物病院を調べておくなど、頼れる先をひとつ確保しておくことも、その子のためのケアの一部です。
緩和ケアについては、治療をあきらめてから始めるものと思われがちですが、診断のときや治療の初期から受けられるものだと説明されています。痛みや気持ち悪さをやわらげる方法、食べられないときの水分のとり方、自宅での過ごし方など、相談できることは思っているより多くあります。「どうすればこの子が楽に過ごせるか」という聞き方で、かかりつけの先生に切り出してみてください。
そして、お別れのあとに訪れる気持ちの揺れについても、あらかじめ少しだけ知っておくと支えになります。

よくある質問
※本記事は一般的な情報提供が目的で、診断・治療の代わりではありません。気になる症状は動物病院にご相談ください。
まとめ
最期が近づくころの便の変化は、下痢・失禁・量が減って出なくなること、そして亡くなる前後に出ることなど、さまざまなかたちであらわれるとされています。いずれも体の力が弱まっていく過程で起こるものとして説明されており、飼い主さんのお世話が原因ではありません。
そのうえで、血が混じる・黒っぽい・水のような下痢が続く・いきんでも出ない・ぐったりしているといった変化は、様子を見ずに動物病院へ連絡したいサインとして挙げられています。判断はいつも診察をした獣医師のものです。迷ったら電話一本で構いませんので、ひとりで抱え込まないでください。
寝床を替え、体を拭き、名前を呼ぶ。その繰り返しのなかに、その子が受け取っているものがきっとあります。残された時間が、おふたりにとって穏やかなものでありますように。