もう動かなくなってしまった体を前にして、「抱っこしてもいいのだろうか」と手を止めていらっしゃるかもしれません。抱きしめたい気持ちと、「触ったら何かよくないことが起きるのでは」というためらいの、両方があるのだと思います。結論からお伝えすると、亡くなった犬を抱っこしても大丈夫です。多くのペット葬儀社も、抱いてお別れをすること自体は問題のないこととして案内しています。この記事では、抱っこするときの支え方、死後硬直が始まっているときの触れ方、衛生面で気をつけたいこと、そして「抱けない」というお気持ちについて、静かにお伝えします。編集部が各ペット葬儀社の公式情報と、環境省・厚生労働省の共通感染症に関する資料を調べてまとめました。


一言でいうと、亡くなった犬を抱っこしてお別れすることに、衛生上の一般的な問題は通常ありません。手を洗う・体液や傷のある部分にはタオルを当てる、といった基本的な配慮をしたうえで、抱きたいだけ抱いてあげて構いません。
犬が亡くなったあと、抱っこしてもいい?
抱いて構いません。ペット葬儀社各社の案内でも、ご遺体に触れること自体は基本的に問題ないとされています(イオンのペット葬「ペットライフ知恵袋」ほか)。むしろ、体をきれいに拭いて姿勢を整えるという安置の作業そのものが、触れることを前提にしています。抱きしめて名前を呼ぶ時間は、これからの長いお別れの日々を支えてくれるものになります。

ただし、次の3つだけは先に知っておいていただきたいことです。どれも「抱いてはいけない」という話ではなく、抱くときの持ち方や順番の話です。
そして、感染症など、ご遺体の扱いについて獣医師から具体的な指示を受けている場合は、この記事の内容より、その指示を優先してください。これについては後ほど詳しくお伝えします。
抱っこするときの、やさしい支え方
難しい作法はありません。生きていたころの抱き方をそのまま、少しだけ丁寧にするだけです。小型犬でも中・大型犬でも、考え方は同じです。

1バスタオルを1枚、体の下に敷く
体の下にタオルを差し入れてから抱き上げると、体液で服が汚れる心配がなくなり、腕にも負担がかかりません。抱いたあとにそのまま安置の箱へ戻せるので、体を何度も持ち上げずにすみます。大型犬の場合は、二人でタオルの両端を持つと安全です。
2頭とお尻を、両手で同時に支える
片方の手のひらで首の後ろから頭を、もう片方の腕で胸からお尻のあたりを受け止めます。抱き上げる瞬間に首がうしろへ倒れやすいので、頭を支える手を先に添えてから持ち上げてください。眠っている子を起こさないように——という力加減で十分です。
3膝の上に乗せて、そのまま座る
立ったまま抱き続けるより、椅子や床に座って膝の上に迎えるほうが、体もご自身も落ち着きます。時間の制限はありません。名前を呼んでも、話しかけても、黙ってそばにいるだけでも構いません。
4そっと箱に戻し、保冷を続ける
抱いているあいだは保冷が止まります。長時間抱き続けると体を傷めることにつながるため、ある程度時間が経ったら、タオルごと箱に戻して保冷剤を当て直してください。「戻したらまた抱っこすればいい」と思っていただけたらと思います。
死後硬直が始まっているときの、触れ方
犬の死後硬直は、亡くなってから数時間ほどで顎や手足の先から始まり、半日から1日ほどで全身に及ぶことが多いとされています(イオンのペット葬「ペットライフ知恵袋」)。進み方には個体差があり、体の小さな子ほど早く進む傾向があるといわれます。

硬直が始まっていても、抱っこはできます。変えられないのは「姿勢」だけです。つっぱった手足を胸のほうへ折り曲げようとしたり、開いた口を閉じようと力を入れたりするのは避けてください。関節や皮膚を傷めてしまうことがあります。硬直している体は、姿勢を変えずにそのままの形で、タオルごと持ち上げて抱く——これが一番やさしい方法です。
「もっと早く姿勢を整えてあげればよかった」と悔やまれるかもしれません。けれど硬直は、時間が経つと自然にゆるみます(解硬)。ゆるんできたタイミングであれば、また少し姿勢を整えてあげることもできます。あわてなくて大丈夫です。
衛生面で気をつけたいこと|手洗い・体液・獣医師の指示
「触ったら病気になるのでは」というご不安について、事実をお伝えします。ふだんの暮らしのなかで一緒に過ごしてきた子であれば、亡くなったあとに触れたり抱いたりすることで深刻な問題が起こることは、一般には多くないとされています。とはいえ、いくつか整えておくとよい配慮があります。

獣医師から指示があるときは、その指示に従ってください
ここは正確にお伝えします。人にも感染する可能性のある病気(人獣共通感染症)で亡くなった場合など、ご遺体の扱いについて動物病院から具体的な指示が出ることがあります。その場合は、指示の内容が最優先です。触れてよいか、どこまで触れてよいか、どのような防護が必要かは、病名や状況によって異なるため、この記事で一律にお伝えすることはできません。
治療中に亡くなった、原因のはっきりしない亡くなり方だった、看取りの前に人が体調を崩していた——そうした場合は、抱っこする前にかかりつけの動物病院へ一本電話を入れてください。「抱っこしてお別れしても大丈夫でしょうか」と尋ねれば、その子の状況に即した答えが返ってきます。多くの場合は「大丈夫ですよ」という返事になりますが、確認してから抱くほうが、あとの気持ちも穏やかです。
抱けなくても、大丈夫です
ここまで「抱っこしていい」とお伝えしてきましたが、同じくらい大切なことがあります。抱けなくても、まったく問題ありません。

冷たくなった体に触れるのがこわい、抱いたら気持ちが崩れてしまいそうで動けない、亡くなった姿を直視できない——どれも、おかしなことではありません。愛情が足りないからでもありません。触れられないほど深く結びついていた、というだけのことです。頭をひとなでするだけでも、離れたところから見つめるだけでも、そばで名前を呼ぶだけでも、お別れは十分に成り立ちます。
逆に、何時間も抱いていたい、夜のあいだずっとそばに置いておきたいという方もいらっしゃいます。それも自然なことです。ただ、体の状態を保つために保冷は必要ですので、「抱く時間」と「冷やす時間」を交互にとる形にしていただけたらと思います。
子どもが触れたがるとき
お子さんにとっては、これが初めて出会う「死」かもしれません。触れたがるようなら、止めなくて大丈夫です。手を洗ってから、大人が一緒に手を添えて、背中や頭をなでる程度から始めてみてください。「冷たいね」「もう息をしていないね」と感じたことを言葉にできる場をつくってあげると、子どもは自分の受け止め方を整理しやすくなります。
反対に、こわがって近づけないときも、無理に触れさせないでください。「さよならを言おうね」と促すだけで十分です。悲しむこと自体を止めない、急いで「新しい子を迎えよう」と言わない——専門家が共通して挙げているのはこの2点です。食欲が落ちる、眠れない、ふさぎ込むといった状態が長く続くときは、学校のスクールカウンセラーや小児科など、専門家に相談する選択肢もあります。
抱いたあとは、保冷して安置を続ける
抱っこのあとは、体を休ませてあげる時間です。底のしっかりした箱にタオルや毛布を敷き、下にペットシートやビニールを敷いたうえで寝かせます。頭とお腹のあたりを中心に、タオルで包んだ保冷剤やドライアイスを当て、直射日光の当たらない涼しい部屋(20℃以下が目安)に安置します。保冷剤はこまめに交換してください。保冷剤を直接肌に長く当てると毛や皮膚が傷むため、必ずタオル越しに当てます。

この状態を保てば、季節にもよりますが、火葬までのあいだ、何度でもそばへ行き、抱いて、また戻す、という時間を持つことができます。
火葬の日まで抱いてお別れをしたい、火葬の当日も最後まで付き添いたい——そう思われるなら、「立会火葬」を選ぶと、炉に入るところから収骨まで立ち会うことができます。訪問火葬(自宅前に専用車で来てもらう形式)でも、立ち会えるプランを用意している業者が多くあります。依頼先を選ぶときは、料金が事前に確定するか、立ち会いと返骨ができるか、固定の斎場や所在地が確認できるかを必ずチェックしてください。この業界には残念ながら悪質な事業者の事例も報じられています。
よくある質問
※本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。ご遺体の扱いについて動物病院から指示がある場合は、その指示に従ってください。気になることは動物病院にご相談ください。
まとめ
亡くなった犬を抱っこしてお別れすることに、衛生上の一般的な問題は通常ありません。手を洗うこと、体液や傷のある部分にはタオルを当てること、頭と体を両手で支えること、硬直した関節を無理に動かさないこと——気をつけるのはこれくらいです。抱いたあとは保冷して涼しい場所へ戻し、また会いにいってあげてください。そして、抱けなくても、それでいいのです。触れる形も、触れない形も、どちらもまぎれもないお別れです。長い時間をともに過ごしたその子が、あたたかい腕の記憶のなかで、静かに眠れますように。