高齢の猫が突然倒れて手足を突っぱらせ、しばらくして何事もなかったように起き上がる。病院で検査を受け、「てんかん発作」という言葉を告げられた——そんな数日を過ごしていらっしゃる方に向けて、この記事を書いています。
診断名がついたことで、少しだけ見通しが立った気持ちと、これから一生この子と発作に付き合っていくのかという不安が、同時にやってくることがあります。とくに高齢になってからの発作は、脳の病気が背景にあることが多いと説明されるため、「この先どうなるのだろう」という思いが胸を離れないかもしれません。
ここでは、てんかんという診断がついたあとの暮らしに焦点をあてて、発作の原因の分け方、診断までに行われる検査、抗てんかん薬との付き合い方と通院のリズム、発作記録のつけ方、そして日々の生活で気をつけたいことを、獣医師監修の一般向け解説をもとに整理してお伝えします。治療の内容そのものは主治医が決めるものですから、この記事は「主治医と話すための下地」として読んでいただければと思います。


一言でいうと、高齢の猫のてんかんは「発作という症状にどう付き合っていくか」を主治医と一緒に決めていく、長い付き合いの病気です。診断がついたあとにご家庭でできる一番大きな仕事は、発作を記録し、それを持って定期的に通うことだとされています。
高齢の猫のてんかんは「原因のある発作」であることが多いとされます
てんかんという言葉は、ひとつの病気の名前というより、「脳の神経の電気的な乱れによって発作が繰り返し起こる状態」を指す呼び方として使われます。そのため、診断がついたあとにまず整理しておきたいのが、その発作の背景に何があるのか、というタイプの違いです。

獣医師監修の解説では、猫の発作は脳の構造に病変がある「構造的(症候性)てんかん」、検査で明らかな異常が見つからない「特発性てんかん」、脳以外の体の病気が引き金になる「反応性発作」に分けて考えられ、猫では構造的てんかんが約6割以上、特発性てんかんが約2割前後を占めるとされています(VETZ PETZ 獣医師監修コラム)。犬や人では特発性が多いとされるのに対し、猫はこの点が異なると説明されます。
高齢での発症は、脳の病気が背景にあることが多いと説明されます
年齢による傾向もあります。同じ解説では、構造的てんかんは7歳以降の高齢になってから現れるケースが多く、特発性てんかんは生後6か月齢から6歳ごろに見られることが多いとされています。動物病院の解説でも、高齢の猫で突然発作が起こった場合は、脳腫瘍など何らかの病気が背景にある可能性が高くなると説明されています(はやし犬猫病院)。
この話は、聞くのがつらい方もいらっしゃると思います。ただ、原因があるということは、その原因に向けた治療や緩和の選択肢を主治医と検討できるということでもあります。実際の治療方針では、構造的てんかんなら原因となっている病気の治療が優先され、特発性てんかんなら発作を抑える治療が中心になる、という考え方が一般的だとされています。どのタイプに当てはまるかは検査でしか分かりませんので、ここは自己判断せず、主治医の説明を頼りにしてください。
| 項目 | 特発性てんかん | 構造的(症候性)てんかん |
|---|---|---|
| 背景 | 検査で明らかな脳の病変が見つからない | 脳腫瘍・脳炎・脳血管障害などがある |
| 発症しやすい年齢 | 生後6か月〜6歳ごろが多いとされる | 7歳以降に現れるケースが多いとされる |
| 猫での割合の目安 | 約2割前後とされる | 約6割以上とされる |
| 治療の考え方 | 発作を抑える治療が中心 | 原因となる病気の治療が最優先 |
| 診断のために行われること | 他の原因を除外していく検査 | 画像検査などで病変を確認する |
※分類・割合は一般向け解説をもとにした目安で、個々の猫にそのまま当てはまるものではありません。
てんかんと診断されるまでに、どんな検査が行われるのか
「なぜあれこれ検査をするのだろう」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。てんかんは、他の原因による発作を一つずつ除外していくことで診断される性質があるため、段階を踏んだ検査が行われるのが一般的だとされています。

1問診と、神経学的な検査
いつ・どんなふうに発作が起きたかを詳しく確認したうえで、体の診察と神経の働きを見る検査が行われます。ここで飼い主さまが持っている情報が、そのまま診断の材料になります。
2血液検査などで、脳以外の原因を確認する
麻酔をかけずにできる検査から始め、低血糖や肝臓・腎臓の病気など、脳以外の不調が発作の引き金になっていないかを調べるのが一般的だとされています(アニコム損保「猫との暮らし大百科」)。
3必要に応じて、MRIや脳脊髄液の検査
猫は構造的てんかんが多いため、原因を特定する目的でMRI検査や脳脊髄液検査がすすめられることが多いと説明されています。全身麻酔が必要になるため、高齢の猫では体への負担と得られる情報を天びんにかけて、主治医とよく相談して決めることになります。
高齢だから検査をあきらめる、と決めてしまう必要はありませんし、逆にすべての検査を受けなければならないわけでもありません。「この検査を受けると、治療の方針がどう変わるのか」を主治医に率直に尋ねてみるのが、判断のいちばんの近道だと思います。費用や麻酔のリスクについても、遠慮なく聞いて構いません。
抗てんかん薬との付き合い方と、通院のリズム
診断のあと、多くの飼い主さまが最初に戸惑うのがお薬のことです。ここでは具体的な薬の種類や量には触れません(それは主治医が猫の状態を見て決めるものです)が、考え方の枠組みだけ知っておくと、診察室での話がぐっと分かりやすくなります。

治療の目標は「完治」ではなく「発作を減らすこと」とされています
動物病院の解説では、てんかん治療は「完治」よりも「発作を減らし、生活の質を保つこと」を目標に考えられると説明されています(はやし犬猫病院)。発作がゼロにならなくても、回数が減り、一回の発作が軽くなっていれば、治療としては進んでいる、という見方をします。ここを取り違えると、「薬を飲ませているのにまた発作が起きた」と、ご自身を責めてしまいやすくなります。
いつから薬を始めるかには、目安があるとされています
投薬を始めるかどうかの判断には一定の目安があり、発作の頻度が半年に2回以上の場合、あるいは回数は多くなくても一回の発作が重い場合に投薬が検討されるとする解説があります(アニコム損保「猫との暮らし大百科」)。同じ解説では、いったん始めると一生涯の投薬が必要になることがほとんどだとも述べられています。この「一生」という言葉に立ち止まってしまう方は少なくありませんが、裏を返せば、発作と付き合いながら日常を続けていくことができる、という意味でもあります。
ふらつきや眠そうな様子が出たら、自己判断で減らさず相談を
抗てんかん薬には、ふらついたり、ぼんやりして元気がなくなったりといった副作用が見られることがあるとされています。気になる様子が出たときに大切なのは、勝手に量を減らしたりやめたりしないことです。急な中断は発作を誘発する危険があると一般に説明されており、必ず主治医に相談したうえで調整してもらってください。定期的な通院と検査は、この調整のために欠かせない時間になります。
発作の記録が、次の診察でいちばん役に立ちます
診断がついたあと、ご家庭で担う役割のなかでもっとも大きいのが「記録」です。診察室で猫が発作を起こしてくれるわけではありませんから、主治医が判断の材料にできるのは、飼い主さまが持ち帰った情報だけになります。

記録として残しておきたいのは、発作が起きた時間と終わった時間、発作時と発作後の猫の様子で、可能であれば動画を撮っておくとよいとされています(アニコム損保「猫との暮らし大百科」)。動画は、言葉での説明よりも獣医師が正確に判断しやすくなると説明されており、初めての発作かどうかを見きわめる場面でも役立つとされます。
とはいえ、目の前で愛猫が倒れているときに冷静にメモを取るのは、簡単なことではありません。落ち着いてからで構いませんので、スマートフォンのメモに一行だけでも残しておく。それだけで、半年後に「今年に入って何回、どんな発作があったか」を主治医と共有できるようになります。カレンダーに印をつけるだけの方法でも、回数の把握という点では十分に意味があります。
発作が起きたときに、家庭で気をつけたいこと
診断がついていても、発作の場面に慣れることはなかなかありません。基本的な考え方だけ、あらかじめ知っておくと少し落ち着いて動けます。

発作の最中は意識がなくなっており、不意に強く噛んでしまうことがあるため、体を押さえつけたりむやみに触ったりしないほうがよいと説明されています。することがあるとすれば、周囲の家具や物を遠ざけて、猫がぶつかってけがをしないようにすることだとされています(たかつきユア動物病院)。
また、通常の発作は1〜2分ほどで治まることが多いとされる一方で、発作が5分以上続く場合は「発作重積」と呼ばれる緊急の状態とされ、すぐに動物病院へ連絡するよう案内されています。24時間以内に何度も発作が繰り返される「群発発作」も、体への負担が大きい状態として、早めの受診がすすめられています。判断に迷うときは、待たずにかかりつけへ電話をしてください。夜間や休日にどこへ連絡すればよいかを、あらかじめ主治医に確認して冷蔵庫に貼っておくと安心です。
てんかんのある高齢猫と暮らすうえで、日々気をつけたいこと
薬と通院が治療の柱だとすれば、暮らしのほうは「発作が起きても大きなけがにつながらない環境」と「体の変化を早く見つける習慣」の2つに絞って考えると、無理なく続けられます。

1落ちるとけがをする場所を減らしておく
高い場所のキャットタワーや、階段のそば、浴室の水回りなど、発作が起きたときに危険になりやすい場所を見直します。段差を低くする、滑り止めを敷くといった工夫は、シニア期の関節の負担を減らすことにもつながります。
2お留守番の時間の過ごし方を決めておく
発作は、人がいない時間にも起こりえます。長時間の留守番が多いご家庭では、ケージや一室にゆるやかに区切って、危険の少ない場所で過ごしてもらうという方法もあります。ペットカメラを置いて、発作の有無を後から確認しているという声もあります。
3お薬の時間を、生活のリズムに組み込む
投薬は毎日続くものですから、続けやすい形にしておくことが何より大切だとされています。飲ませ方に困っているときは我慢せず、主治医や動物看護師に相談してみてください。剤形や与え方の工夫を提案してもらえることがあります。
4定期的な健康診断で、全身の状態を見てもらう
高齢の猫では、腎臓や甲状腺など他の不調が重なってくることもあります。抗てんかん薬を使っている場合の定期検査とあわせて、全身の状態を見てもらう機会を持っておくと、体調の変化に気づきやすくなります。
5環境の変化は、できるだけゆるやかに
引っ越しや模様替え、来客など、大きな環境の変化はシニア猫にとって負担になりやすいとされています。避けられない場合でも、いつもの寝床や匂いのついたものを残しておくと、落ち着いて過ごしやすくなります。
そして、飼い主さまご自身のことも忘れないでいてください。いつ発作が起きるか分からない緊張の中で暮らすのは、想像以上に消耗します。家族と当番を分ける、記録を全部ひとりで抱えない、眠れない日が続くときは人の医療にも頼る。介護する側が倒れないことも、その子のための備えのひとつです。
これからの時間のことを、静かに考えておく
ここからは、まだ考えたくないという方は読み飛ばしていただいて構いません。てんかんの背景に脳の病気がある場合、進行にともなって発作の様子が変わったり、日常の様子に変化が出たりすることがあると説明されています。先のことを考えるのは怖いものですが、心づもりが少しあるだけで、いざというときに「その子のために何を選びたいか」を落ち着いて決めやすくなります。

考えておくとよいのは、たとえば、どこまでの検査や治療を望むか、通院と自宅での過ごしやすさのどちらを優先したいか、夜間の急変時にどこへ連絡するか、といったことです。答えを今すぐ出す必要はありません。診察のついでに主治医へ「もしものときはどう考えておけばよいでしょうか」と一度尋ねておくだけでも、心の準備は進みます。
そして、その日が来たときにどうするかを知っておきたい方のために、お別れの流れをまとめた記事もご用意しています。今は読まなくても大丈夫です。必要になったときに戻ってきていただければと思います。
発作を看病してきた方ほど、見送ったあとに「あのとき別の選択をしていれば」という思いにとらわれやすいと言われます。その気持ちとの向き合い方についても、別の記事で触れています。
よくある質問
※本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状は動物病院にご相談ください。
まとめ
高齢の猫のてんかんは、猫では構造的てんかんが多いとされることから、まず「発作の背景に何があるか」を検査で見きわめるところから始まります。診断がついたあとは、完治ではなく発作を減らして生活の質を保つことを目標に、投薬と定期的な通院で付き合っていくのが一般的な考え方だとされています。
ご家庭でできる一番のことは、発作の記録を残し、それを持って主治医のもとへ通い続けることです。難しい判断は主治医と分け合いながら、日々の暮らしのほうでは、けがをしにくい環境と、続けやすい投薬のリズムを整えていく。それだけで十分に、その子のためになっています。
発作のたびに心を削られながら、それでもそばにいることを選んでいるあなたの毎日が、少しでもおだやかでありますように。