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犬の徘徊が止まらないとき|円を描いて歩く子との暮らし方と、家族が休むための工夫

夜中に爪の音で目が覚めて、見に行くとまた同じところをぐるぐる歩いている。抱き上げて寝床に戻しても、数分後にはまた立ち上がって歩き出す。声をかけても届いている手ごたえがなく、家具のすき間にはまって鳴いている姿を見ると、胸が締めつけられる思いがすると思います。

徘徊が「一日だけ」なら耐えられても、それが何週間、何か月と続くと、疲れているのは犬だけではありません。眠れない夜が重なって、日中の仕事や家事にも影響が出て、うまく寝かせてあげられない自分を責めてしまう飼い主さんは少なくありません。

この記事では、長く続く徘徊とどう暮らしていくかを、獣医師や動物看護師が公開している情報をもとに整理しました。歩くことを無理に止めるのではなく、歩いても安全な家に整えること。そして、介護する家族が休むための方法までをまとめています。

飼い主さん
もう何週間も、家の中をぐるぐる歩き続けています。止めても止まらなくて、私も眠れません。この子のために、何をしてあげたらいいのでしょうか。
編集部
徘徊そのものを止めるのは難しいことが多い、と獣医療の情報では説明されています。だからこそ、歩き続けても危なくない部屋に整えることと、ご家族が眠れる時間をつくることの両方を考えていきます。どちらも同じくらい大切です。

一言でいうと、止まらない徘徊は「やめさせる」ことより「安全に歩ける形に整える」ことを軸に考えるのが現実的です。円形の囲いや滑り止め、夜のやわらかな灯りといった環境の工夫と、家族で見守りを分け合う体制づくりが、犬にとっても人にとっても負担の少ない過ごし方につながっていきます。

徘徊が止まらないとき、まず知っておきたいこと

目的なく家の中を歩き回る、自分を中心に円を描くように歩き続ける、狭いところに入り込みたがる——これらは高齢犬の認知症(獣医療では認知機能不全症候群、認知障害症候群などと呼ばれます)でよく挙げられる様子として、アニコム損害保険の「犬との暮らし大百科」などで紹介されています。

高齢になるほど珍しくないこともわかっています。プリモ動物病院グループのコラムでは、カリフォルニア大学の研究として、11〜16歳の犬の約62%が認知障害症候群の症状に1つ以上当てはまったと紹介されています。長く一緒に暮らしてきた結果として訪れる変化であり、飼い方が悪かったから起きたものではありません。

高齢の犬に寄り添う飼い主の手
写真はイメージです

「歩くのをやめさせる」を目標にしない

徘徊は、叱ったり抱き止めたりしてもすぐには止まらないことがほとんどです。無理に押さえ込むと犬が興奮したり、飼い主さんの疲れが増えたりして、お互いにとってよい結果になりにくいと考えられています。老犬ホーム・老猫ホームの情報サイト「老犬ケア」でも、徘徊そのものを止めるのは難しく、昼夜のバランスを整えることで夜間の徘徊をある程度抑える方向が説明されています。

そこで目標を、「歩かせない」から「歩いてもぶつからない・はさまらない・すべらない」に置きかえます。歩き続けたい気持ちをそのまま受け止められる部屋にしておけば、家族が付きっきりで見ていなくても、ある程度は安心して見守れるようになります。

ただし、様子が急に変わったときは受診を

一方で、ぐるぐる回る動きが急に始まった場合は、加齢による変化とは別の原因が疑われることもあります。老犬ケアでは、回り続ける症状について前庭障害などの可能性に触れ、早めに獣医師へ相談するよう案内しています。「いつからか少しずつ」ではなく「昨日から急に」始まった徘徊は、まず動物病院で相談してください。

頭の傾き、まっすぐ歩けない、目が細かく揺れる、片側にばかり倒れるといった様子をともなうときも同様です。原因の考え方については、別の記事で詳しく整理しています。

円を描いて歩く・隅から出られない|部屋の整え方

止まらない徘徊と暮らすうえで、いちばん効果を実感しやすいのが部屋の環境です。とくに困りごとになりやすいのが、「円を描いて歩き続ける」「家具のすき間や部屋の角に入り込んで出られなくなる」の2つです。

歩き続けても安全な部屋に整えるための4つの工夫
歩き続けても安全な部屋に整える4つの工夫(当メディア編集部作成)

角をなくす|円形サークルとドッグガード

ぎふ動物行動クリニック(獣医行動診療科認定医・奥田順之獣医師)は、徘徊や旋回のある犬について、ぐるぐる回っても大丈夫なように角のない円形のサークルを用いること、あるいは部屋の角にドッグガードを置いて角を作らないことを挙げています。アニコム損保の解説でも、サークルで動ける範囲を制限すると、はまって鳴くことが減り、そのたびに駆けつける負担も軽くなると説明されています。

囲いというと「閉じ込めるようでかわいそう」と感じるかもしれません。けれど実際には、行き止まりのない道をぐるぐる歩ける場所を用意することは、はまって動けなくなる時間を減らす工夫でもあります。犬が歩き続けたい気持ちを、行き止まりのない形に受け止めるための道具だと考えてみてください。

すき間・段差・すべる床への対策

ペット用品通販のペピイが動物介護施設代表・愛玩動物看護師の安部里梅さん監修で公開している記事では、家具の角にクッションボードを当てる、すき間をふさぐ、滑り止めマットを敷く、階段やベランダに柵を設ける、といった対策が挙げられています。長い時間歩き続ける足腰にとって、すべる床は思っている以上の負担になります。

すべり止めは部屋全体に敷き詰めなくても、その子がよく歩く道筋に沿って敷くだけで違いが出ます。ソファと壁のすき間、テレビ台の裏、洗面所の扉の内側など、「入り込みそうな場所」を家族で一度洗い出して、順にふさいでいくとよいでしょう。

水・トイレ・寝床は歩く範囲の中に

アニコム損保の解説では、トイレまでの段差をなくす、いつもいる場所からトイレまでジョイントマットを敷いて誘導する、といった工夫が紹介されています。生活の範囲をやや狭めに保ち、飲み水・トイレ・寝床をその中にまとめておくと、歩き回った先で力尽きてしまうことを防ぎやすくなります。

寝床は、囲いの中の落ち着ける位置に。歩き疲れたときに自分で倒れ込めるよう、厚みのあるマットを敷いておくと、体を打ちにくくなります。

夜の徘徊と昼夜逆転|眠れる夜に近づけるための工夫

徘徊のつらさが最も大きく出るのが夜です。認知症では昼間の睡眠時間が増え、夜間に起きている時間が長くなる(昼夜逆転)ことが知られており、これが家族の睡眠を削っていきます。夜だけを何とかしようとするより、朝から夕方までの過ごし方を少し変えるほうが、結果として夜が静かになりやすいとされています。

朝の光が差し込む静かな窓辺
写真はイメージです

1朝は一緒に起こして、日の光を浴びる

ペピイの記事では「朝が来たら愛犬も一緒に起こす」「太陽の光を浴びさせる」ことが挙げられています。眠っていたらそっと声をかけて起こし、カーテンを開ける。それだけでも一日のリズムの起点になります。

2日中は短い刺激をこまめに入れる

乙訓どうぶつ病院の解説では、朝日を浴びる時間や日中の活動量を少し増やすこと、においを使う遊びや知育玩具を取り入れることが紹介されています。長い散歩が難しくなっていても、玄関先まで出る、庭で数分過ごすといった短い時間を回数で重ねる形に切り替えていきます。

3夕方までに水分と排泄をすませておく

夜に何度も起きる原因が、のどの渇きや排泄であることもあります。夕方の時点で水を飲めているか、排泄が済んでいるかを確認しておくと、夜中に起こされる回数が減ることがあります。

4夜はやわらかな灯りをつけておく

乙訓どうぶつ病院では、夜間の不安をやわらげる方法として「やわらかな照明をつける」ことが挙げられています。真っ暗にせず、間接照明や常夜灯をひとつ残しておく。目が見えにくくなっている子ほど、うっすらとした灯りが助けになることがあります。

それでも夜鳴きや徘徊が続いて眠れない日が重なるときは、動物病院で相談できることもあります。ぎふ動物行動クリニックでは、薬やサプリメントを含む複数の選択肢を持つことに触れたうえで、犬のQOLを維持しながら飼い主さんのQOLも守っていくことが大切だと述べられています。「まだ我慢できる」と思っているうちに、一度かかりつけの動物病院に相談しておくことをおすすめします。薬の内容や量については必ず獣医師の判断に従ってください。

徘徊が続く子との一日を、どう組み立てるか

ここまでの工夫を、一日の流れとして並べると次のようになります。すべてを完璧にこなす必要はありません。今日できるものをひとつ取り入れて、続けられる形に削っていくくらいの気持ちで十分です。

徘徊が続く犬と暮らす一日の流れ(朝・日中・夕方・夜)
徘徊と暮らす日の一日の組み立て方(当メディア編集部作成)

記録をつけておくと、受診のときに役立ちます。歩き始めた時間、続いた長さ、鳴いた回数、食べた量、排泄の回数。スマートフォンのメモに一行ずつ残すだけでも、変化の速さや、薬を試したときの手ごたえを伝える手がかりになります。

また、日によって波があるのが普通です。昨日は静かに眠れたのに今日はずっと歩いている、ということも起こります。うまくいかなかった日を「自分のやり方が悪かったから」と結びつけないでください。脳の変化による行動は、飼い主さんの努力だけで一定にできるものではありません。

介護する家族の睡眠と負担を、分け合うために

老犬ケアでは、徘徊が続くと極度の睡眠不足などで飼い主の心身に大きな負担がかかる場合があると明記されています。ペピイの記事でも「誰かに頼ることは悪いことではありません」「飼い主さんが健康でないと介護はできません」と、支援を使うことがはっきりとすすめられています。倒れてしまえば、いちばん困るのはその子です。

動物病院で相談する飼い主とスタッフ
写真はイメージです

家の中でできる分担

まず試したいのが、家族の中での夜番の交代です。前半(22時〜2時)と後半(2時〜6時)で分ける、平日と週末で担当を変える、といった形にすると、少なくとも一日おきにまとまった睡眠が取れます。ひとり暮らしの場合は、昼寝を「休憩」ではなく「必要な睡眠」として予定に組み込んでおくことが助けになります。

見守りカメラを使えば、別の部屋で横になりながら様子を確認できます。囲いを整えて危険な場所をふさいでおくことは、こうした「見に行かなくてよい時間」をつくるためでもあります。

外に頼れる預け先とサービス

家の中だけで抱えきれないときには、外部のサービスがあります。老犬ケアによれば、老犬ホームには長期滞在のほか、日中だけのデイケア、短期間のショートステイといった預け方があり、費用は年間50万円〜150万円程度とされています(立地やスタッフ数により変動)。乙訓どうぶつ病院でも、犬のデイサービスなど外部のサポート活用がすすめられています。

頼り先 預ける長さの目安 向いている場面 申し込む前に確認したいこと
デイケア(日中預かり) 日中の数時間〜1日 夜番で削られた睡眠を昼に取り戻したいとき 徘徊・夜鳴きのある子を受け入れているか、投薬に対応できるか
ショートステイ(短期預かり) 数日〜数週間 出張・入院・冠婚葬祭など家を空けるとき 夜間の見守り体制(有人かカメラか)、急変時の連絡と受診の手順
老犬ホーム(長期滞在) 数か月〜終生 在宅での介護が続けられなくなったとき 費用の内訳と支払い方法、面会の可否、動物病院との連携
ペットシッター・訪問介護 1回あたり数十分〜数時間 環境を変えたくない子、移動が負担な子 高齢犬の介護経験、対応できる時間帯、料金の計算方法
かかりつけの動物病院 相談・受診の都度 夜鳴きや不安が強く、家庭の工夫だけでは足りないとき 行動面の相談ができるか、必要に応じた専門医の紹介があるか

費用や受け入れ条件は施設ごとに大きく異なります。実際に預ける予定がなくても、近くにどんな選択肢があるかを元気なうちに調べておくと、いざというときの気持ちの余裕が違ってきます。

自分を責めないために、覚えておいてほしいこと

徘徊の介護が長くなると、多くの飼い主さんが同じ気持ちを通ります。眠れないことへの苛立ち、それを感じてしまう自分への罪悪感、「もっと早く気づいていれば」という後悔。どれも、その子を大切に思っているからこそ生まれる感情です。

静かな部屋で犬のそばに座る飼い主
写真はイメージです

覚えておいていただきたいのは、徘徊は加齢にともなう脳の変化として起こるとされているもので、飼い方の良し悪しで生まれた症状ではないということです。夜に強く叱ってしまった日があっても、その一日でこれまでの年月が損なわれることはありません。眠れずにいる自分を責めるより、明日どこで休むかを決めるほうが、その子のためになります。

そして、介護の日々はいつか終わりを迎えます。その時間が近づいてきたときの心の揺れについては、別の記事で静かにまとめています。今すぐ読む必要はありません。読みたくなったときに、そっと開いてみてください。

高齢期に起こる変化の全体像や、シニア期の暮らしの見直し方は、次の記事にまとめています。

犬の徘徊についてよくある質問

Q徘徊しているとき、抱き上げて止めてもよいのでしょうか。

A危険な場所に向かっているときや、はまって出られなくなっているときは、静かに抱き上げて安全な場所に戻して問題ありません。ただし歩くこと自体を毎回止めようとすると、犬が興奮したり家族が疲れきってしまったりしやすいと考えられています。囲いや滑り止めで歩ける範囲を整えたうえで、必要なときだけ手を貸す形が現実的です。

Qサークルに入れると、かわいそうではないでしょうか。

A角のない円形のサークルは、閉じ込めるためではなく、行き止まりでぶつかったり、すき間にはまったりする事故を減らすための道具として紹介されています。中で自由に歩き続けられる広さを確保し、寝床・水・トイレをその中に置けば、犬にとっても落ち着ける場所になります。慣れるまでは家族が見える位置に置くとよいでしょう。

Q夜鳴きがひどく、近所迷惑が心配です。

A昼夜のリズムを整える工夫を続けつつ、それでも改善しないときは早めにかかりつけの動物病院にご相談ください。動物病院では夜間の不安に対する相談先を紹介してもらえることもあります。近隣には、高齢の犬の介護中であることを一言伝えておくと、事情が伝わって気持ちが楽になる場合もあります。

Q徘徊が始まったら、もう長くないということでしょうか。

A徘徊が現れてからの経過には個体差が大きく、一律に余命と結びつけられるものではありません。認知症の症状がありながら穏やかに過ごしている子もたくさんいます。今の状態や見通しについては、その子を診ているかかりつけの獣医師にたずねるのがいちばん確かです。もしものときの流れを先に知っておきたい方は、次の記事も参考になさってください。

※本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状は動物病院にご相談ください。

まとめ

止まらない徘徊は、力ずくで止めるものではなく、歩き続けても安全な形に整えていくものだと考えられています。角のない囲い、すべり止め、ふさいだすき間、夜のやわらかな灯り。そして、朝の光から始まる一日のリズム。どれも小さな工夫ですが、重ねていくことで犬の不安と家族の負担の両方をやわらげてくれます。

同じくらい大切なのが、介護するご家族が眠る時間です。夜番を分け合うこと、デイケアやショートステイに頼ること、動物病院に相談すること。どれも「あきらめ」ではなく、その子との時間を続けていくための方法です。

歩き続けるその子の足音の分だけ、あなたが眠れずに起き上がってきた夜がありました。その日々が、どうか穏やかな時間に変わっていきますように。

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