「犬は何歳まで生きられるのだろう」と検索された方の胸には、たいてい、たったひとつの願いがあるように思います。今そばにいるあの子に、一日でも長くいてほしい。あるいは、見送ったあとで「もっと生きられたのではないか」という問いが、どうしても離れない。
犬の最高齢として記録に残っている数字は、私たちが思うよりずっと大きなものです。ただ、その記録は「がんばれば届くもの」ではありませんし、届かなかったからといって、誰かの世話が足りなかったということでもありません。記録は、犬という動物にどれだけの可能性があるのかを教えてくれる、静かな目印のようなものです。
この記事では、ギネス世界記録に認定されている世界の最高齢犬と、その記録をめぐって実際に起きた認定取り消しの経緯、日本で最も長く生きたとされる犬、犬種や体格による長生きの傾向、そして長寿だった犬たちに共通していた暮らし方を、公的機関や研究、報道で確認できた範囲だけを整理してお伝えします。数字を眺めながら、今日のその子との時間を思い返していただければ幸いです。


一言でいうと、犬の歴代最高齢はギネス世界記録に認定された29歳5か月(オーストラリアン・キャトル・ドッグの「ブルーイ」)です。日本では26歳9か月まで生きた雑種犬「プースケ」が知られています。
犬の最高齢は29歳5か月|ギネス世界記録に残る「ブルーイ」

ギネス世界記録が「史上最高齢の犬(Oldest dog ever)」として認定しているのは、オーストラリアン・キャトル・ドッグのブルーイ(Bluey)で、記録は29年5か月です(ギネス世界記録)。
ブルーイは1910年6月7日にオーストラリア・ビクトリア州ロチェスターで生まれ、1939年11月14日に亡くなったとされています。ホール家に迎えられ、牛や羊を追う牧畜犬として約20年ものあいだ働いたのち引退したと伝えられています。人と一緒に毎日体を動かし、決まった時間に働き、決まった時間に休むという暮らしを長く続けた犬でした。
「31歳のボビ」の記録が取り消された経緯
犬の最高齢を調べると、ポルトガルの犬「ボビ(Bobi)」の名前が出てくることがあります。ボビは31歳165日で2023年10月に亡くなったとされ、いったんはギネス世界記録に史上最高齢の犬として認定されていました。
しかし獣医師などから年齢を疑問視する声が上がり、ギネス・ワールド・レコーズは記録の見直しを実施。2024年2月22日、生年月日を証明する決定的な証拠がないとして、ボビの記録認定を取り消したと発表しました。マイクロチップの情報を管理するポルトガル政府のデータベースでは、2008年以前に生まれた犬について年齢の証明を求めていなかったことが理由として挙げられています(CNN.co.jp、NPR)。これにより、史上最高齢の記録はふたたびブルーイのものとなりました。
インターネット上には今も「世界最高齢は31歳」と書かれた情報が残っています。数字そのものより、「記録として確認できているのはどこまでか」を知っておくほうが、情報に振り回されずにすみます。
記録として知られている長寿の犬
| 名前 | 犬種 | 生年〜没年 | 年齢 | 記録の扱い |
|---|---|---|---|---|
| ブルーイ(豪) | オーストラリアン・キャトル・ドッグ | 1910年〜1939年 | 29年5か月 | ギネス世界記録「史上最高齢の犬」 |
| ボビ(ポルトガル) | ラフェイロ・ド・アレンテージョ | 不明〜2023年 | 31歳165日とされた | 2024年2月に認定取り消し |
| プースケ(日本) | 雑種 | 1985年〜2011年 | 26歳9か月 | 存命犬の世界最高齢として認定歴あり |
なお、ギネス世界記録には「存命中の最高齢の犬」という別の部門もあり、こちらは記録保持者が入れ替わります。最新の認定状況は、ギネス世界記録の公式サイトでご確認ください。
日本の最高齢犬|26歳9か月まで生きた「プースケ」

日本で広く知られている長寿犬が、栃木県さくら市で暮らしていた雑種の「プースケ」です。1985年3月1日に生まれ、2011年12月5日に老衰で亡くなりました。享年は26歳9か月で、2010年12月には存命中の世界最高齢の犬としてギネス世界記録に認定されています(日本経済新聞)。
プースケは特別な犬種ではなく、いわゆる雑種犬でした。26歳という年齢は、後ほど紹介する一般的な換算式にあてはめると、人でいえば120歳前後にあたります。日本の家庭で暮らしていた1頭の犬が、それだけの時間を家族と過ごしたということになります。
長寿の理由については、飼い主やメディアからさまざまなことが語られてきましたが、確実に裏づけられているものばかりではありません。ひとつ言えるのは、雑種犬は特定の犬種に偏った遺伝的な疾患リスクを受け継ぎにくいと考えられており、統計上も長寿の上位に入りやすいということです。この点は次のセクション以降で詳しく見ていきます。
犬の年齢を人間に換算すると何歳?【早見表】

犬の年齢を人の年齢に置きかえるとき、一般的によく使われるのが次の考え方です。小型犬・中型犬は2歳で人の24歳にあたり、以降は1年ごとに約4歳ずつ。大型犬は1歳で人の12歳にあたり、以降は1年ごとに約7歳ずつ重ねていくとされています(ペットラインほかの解説より)。
| 犬の年齢 | 小型犬・中型犬 | 大型犬 |
|---|---|---|
| 1歳 | 15歳 | 12歳 |
| 2歳 | 24歳 | 19歳 |
| 5歳 | 36歳 | 40歳 |
| 7歳 | 44歳 | 54歳 |
| 10歳 | 56歳 | 75歳 |
| 13歳 | 68歳 | 96歳 |
| 15歳 | 76歳 | 110歳 |
| 20歳 | 96歳 | — |
この表を見ると、大型犬は7歳の時点ですでに人の50代半ば、10歳で70代に入る計算になります。同じ「10歳」でも、体の大きさによって背負っている年月はまったく違うということです。大型犬の場合、7歳前後からシニア向けの健康管理に切り替える考え方が広くとられているのは、この歳の重ね方の差によるものです。
ちなみに、ブルーイの29年5か月をこの式(小型・中型犬)で換算すると、人でおよそ130歳前後になります。数字にすると、記録の重みが少し実感しやすくなるかもしれません。あくまで目安であり、犬種や個体によって差があることは前提としてお含みおきください。
犬種別に見る長生きの傾向|平均寿命ランキングと体格の関係

最高齢の記録が29年である一方、日本の犬全体の平均寿命はどのくらいなのでしょうか。ペット保険の契約データをもとに作成された『アニコム 家庭どうぶつ白書2025』(2025年12月発行)によると、犬の平均寿命は14.1歳とされています(アニコム ホールディングス)。同白書では犬種別の平均寿命も公表されています。
| 犬種 | 平均寿命 | 体格の目安 |
|---|---|---|
| トイ・プードル | 15.3歳 | 小型 |
| ビション・フリーゼ | 15.0歳 | 小型 |
| カニーンヘン・ダックスフンド | 14.8歳 | 小型 |
| 混血犬(体重10kg未満) | 14.8歳 | 小型 |
| 柴 | 14.7歳 | 中型 |
| ミニチュア・ダックスフンド | 14.6歳 | 小型 |
| ジャック・ラッセル・テリア | 14.6歳 | 小型 |
※数値は『アニコム 家庭どうぶつ白書2025』より。2008年4月1日〜2024年3月31日にペット保険契約を開始した犬を対象とした集計です。
小さい犬ほど長生きしやすいと言われる理由
上位に小型犬が並んでいることからも分かるように、犬は一般に体が小さいほど平均寿命が長い傾向があるとされています。大型犬が短命になりやすい理由については、成長のスピードが速く細胞分裂の回数が多くなること、体の大きさに対して心臓などの臓器の比率が小さく負担がかかりやすいことなどが考えられていますが、決定的な結論が出ているわけではありません。
また、上の表で「混血犬(体重10kg未満)」が上位に入っている点も注目されます。特定犬種に集中しやすい遺伝的な疾患のリスクが分散されるためと考えられており、統計上、雑種犬は長寿になりやすい傾向が指摘されています。日本の最高齢犬プースケが雑種だったことも、この傾向と重なります。
体のつくりが寿命に影響することもある
犬種によっては、体のつくりそのものが健康寿命に影響することがあります。英国王立獣医大学(RVC)が英国の動物病院の診療データを解析したVetCompassの研究では、フレンチ・ブルドッグやパグなどの短頭種(鼻がつぶれた犬種)は、呼吸器の問題や脊椎の疾患などを抱えやすく、平均余命が短い傾向にあることが報告されています。
これは「その犬種を飼ってはいけない」という意味ではありません。自分の子の犬種がどんな不調を起こしやすいかを知っておくことが、早めの受診につながるという意味で役に立ちます。気になる症状があるときは、かかりつけの動物病院にご相談ください。
長生きした犬に共通していた4つのこと

長寿だった犬の暮らしぶりや、寿命に関する研究から共通して挙がってくるのは、どれも特別なことではありません。今日から少しずつ整えられるものばかりです。
1適正体重を保つ(やせすぎず、太らせない)
食事量の管理は、寿命に関して最も明確なデータが示されている項目です。ネスレピュリナが48頭のラブラドール・レトリーバーを生涯にわたって追跡した14年間の研究では、給餌量を25%抑えたグループの寿命の中央値が13.0年で、対照グループの11.2年を上回り、健康でいられる期間が約1.8年長かったと報告されています。関節炎の発症も平均で1.5年遅かったとされています(Purina Institute)。おやつを含めた1日の総量を見直すことが、最初の一歩になります。
2歯と口のケアを続ける
歯周病は、3歳を過ぎた犬の多くに何らかの兆候が見られるとされ、獣医歯科の分野で最も一般的な疾患のひとつに挙げられています。悪化すると歯を失うだけでなく、全身の健康に影響することがあるとも言われます。毎日の歯みがきが理想ですが、難しい場合はガーゼで拭う、口の中を見る習慣をつけるだけでも変化に気づきやすくなります。処置が必要かどうかの判断は、動物病院にご相談ください。
3年齢に合った運動と、頭を使う時間をつくる
ブルーイが約20年間、牧畜犬として働いていたように、体を使う暮らしは犬にとって自然なものです。ただしシニア期には、距離を伸ばすことよりも「毎日続けられること」が大切になります。歩く距離を短くして回数を分ける、においを嗅ぐ時間をゆっくりとる、といった調整で十分です。嗅覚を使う時間は、体力が落ちてからも続けられる大切な刺激になります。
4定期的に健康診断を受ける
犬は不調を隠す傾向があり、飼い主が気づいたときには進行していることも少なくありません。シニア期に入ったら年2回を目安とした健康診断が広くすすめられています。血液検査や画像検査で早めに変化をとらえられれば、選べる手立ても増えます。食欲・飲水量・排泄・歩き方の変化は、受診時に伝えられるようメモしておくと役立ちます。
これらを続けたからといって、必ず長生きできると約束できるものではありません。それでも、日々の積み重ねがその子の「調子のよい日」を少しでも増やすことは、多くの飼い主さまが実感されているところだと思います。
シニア期に入った犬との向き合い方

一般に、小型犬・中型犬は7歳前後、大型犬は5〜6歳前後からシニア期に入るとされています。年齢を重ねると、次のような変化があらわれることがあります。
- 寝ている時間が長くなり、呼びかけへの反応がゆっくりになる
- 耳が遠くなる、目が白っぽく濁ってくる
- 段差をためらう、階段を嫌がる、足腰がふらつく
- 食が細くなる、あるいは水を飲む量が増える
- 夜に落ち着かなくなる、同じところを回るなどの行動が出る
こうした変化は加齢によるものもあれば、病気のサインであることもあります。「歳のせい」で片づけず、いつもと違うと感じた時点で動物病院に相談することが、シニア期の暮らしでは大きな意味を持ちます。とくに飲水量や排泄の変化、急な体重の増減は、受診の目安として挙げられることの多い項目です。
暮らしの側でできる工夫もあります。フローリングに滑り止めのマットを敷く、水飲み場を複数に増やす、寝床を静かで温度差の少ない場所に移す、段差にスロープを置く。どれも大がかりな模様替えは必要ありません。その子が一日のなかで長く過ごす場所から、少しずつ整えていくのが現実的です。
お別れが近づいたときに知っておきたいこと

どれだけ長く一緒にいられても、見送る日はいつか訪れます。最高齢の記録を知ることは、その事実をやわらげてはくれません。それでも、あらかじめ知っておくことで、そのときに慌てずにすむことがあります。
食事がとれなくなる、立ち上がれなくなるといった段階に入ったとき、何をどこまでするかに正解はありません。通院を続けるのか、自宅で穏やかに過ごすことを優先するのか。どちらを選んでも、その子を大切にしていることに変わりはありません。判断に迷うときは、かかりつけの獣医師に、今の状態でできることと難しいことを率直に聞いてみてください。
そして、亡くなったあとの安置や火葬については、事前にひととおりの流れを知っておくだけでも、心の負担がかなり変わります。多くの方が、悲しみのただなかで初めて調べることになり、そこで戸惑われます。
見送ったあとに訪れる悲しみもまた、犬と長く暮らした方ほど深くなりがちです。「まだ立ち直れない」と感じることは、弱さではありません。
よくある質問
※本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状は動物病院にご相談ください。統計・記録は執筆時点(2026年7月)に公表されている情報にもとづきます。
まとめ
犬の最高齢としてギネス世界記録に認定されているのは、オーストラリアン・キャトル・ドッグのブルーイの29年5か月です。一時記録を更新したポルトガルのボビは、2024年2月に認定が取り消されました。日本では、雑種犬プースケの26歳9か月が広く知られています。
一方で、日本の犬の平均寿命は14.1歳(『アニコム 家庭どうぶつ白書2025』)。記録との差を見て、少し胸が痛くなる方もいらっしゃるかもしれません。けれど、長生きした犬たちに共通していたのは、適正な体重、口の中の健康、無理のない運動、そして定期的な健診という、どれも地味な積み重ねでした。特別なことをしなければ届かない世界ではありません。
そして、年数の長さがその子との時間の価値を決めるわけではないということも、あわせてお伝えしたいことです。何歳で見送ったとしても、そこにあった日々は、その子にとって確かな一生でした。
あなたとあの子の時間が、これからも穏やかに続きますように。