長く一緒に暮らしてきた猫が、ある日、寝床でおしっこをしていた。ソファの隅が濡れていた。トイレのすぐそばに、間に合わなかった跡があった——。高齢の猫のお漏らしに気づいたとき、多くの飼い主さんはまず戸惑い、そのあとで少し胸が痛くなるのではないでしょうか。「ずっときれい好きだったのに」「ぼけてしまったのだろうか」と、これまでのその子の姿と重ねてしまうからだと思います。
けれど、猫は嫌がらせやわがままで排泄の場所を変えることはないと言われています。シニア期に入ってからのお漏らしには、体の中で起きている変化や、これまで当たり前にできていた動作がつらくなっていることが背景にあるとされています。つまりそれは、しつけの問題ではなく、その子から届いた知らせに近いものです。
この記事では、高齢の猫のお漏らしについて、まず動物病院で確かめておきたい体の変化、様子を見ずに相談してほしいサイン、家でできるトイレ環境の見直し、寝床の防水と体を清潔に保つケア、そして「叱らない」ことの意味を順に整理します。当メディア編集部が、コーネル大学猫健康センターや国内の動物病院・獣医療機関が公開している解説をもとにまとめました。診断や治療そのものは獣医師の領域ですので、この記事は落ち着いて相談するための下準備としてお読みいただければ幸いです。


一言でいうと、高齢の猫のお漏らしは「年のせい」と決めつけずに、まず動物病院で体の変化を確かめることから始めるのが安心です。そのうえで、縁の低いトイレへの変更や置き場所の追加、寝床の防水といった家での工夫を重ねていくと、猫にも飼い主さんにも負担の少ない形が見つかりやすくなります。
高齢猫のお漏らしは、しつけではなく体からの知らせ

猫は本来、砂のような掘れる場所を選んで排泄し、そのあと丁寧に埋める動物です。この習性は年をとっても失われにくいと言われており、だからこそ、これまでトイレを外さなかった猫が急に別の場所で済ませるようになったときは、「そうせざるを得ない事情ができた」と考えるのが自然だとされています。
コーネル大学猫健康センターは、シニア期の猫が家の中で排泄してしまう背景として、関節炎の痛みでトイレに入りづらくなること、腎臓病や糖尿病、甲状腺機能亢進症などで尿量が増えトイレが早く汚れてしまうこと、視覚や嗅覚の衰え、認知機能の低下などを挙げています。日本ヒルズ・コルゲートの解説でも、高齢期の猫では関節炎の痛みでトイレの縁をまたぐのがつらい、認知機能の低下でトイレの場所が分からなくなる、運動能力の低下でトイレまで間に合わないといったことが起こりやすいと説明されています。
ここで大切なのは、これらを飼い主さんが外から見分けることはできない、という点です。同じ「寝床でのお漏らし」でも、原因が腎臓病なのか、関節の痛みなのか、認知機能の変化なのかによって、必要な対応はまったく変わります。トイレを買い替える前に、まず動物病院で確かめておく理由はここにあります。
もうひとつ知っておいていただきたいのは、猫は不調を隠す動物だということです。食欲があり、いつもどおりに見えても、体の中では変化が進んでいることがあると言われています。お漏らしという目に見える変化は、その意味で、静かに進んでいたものに気づくきっかけになります。
まず動物病院で確かめたい、4つの体の変化
ここでは、高齢猫のお漏らしと関連づけて語られることの多い体の変化を整理します。いずれも似た形で現れることがあり、検査を経なければ区別はできないとされています。以下は受診前に「どんな可能性があるのか」を知っておくためのもので、ご自宅で判断するためのものではありません。

おしっこの量が増える病気|腎臓病・糖尿病・甲状腺機能亢進症
慢性腎臓病は中高齢の猫に多いとされる病気で、水をよく飲むようになる、尿の量や回数が増える、体重が減る、被毛の艶が落ちるといった変化が挙げられています。糖尿病や甲状腺機能亢進症でも尿量が増えることがあると説明されており、いずれも早い段階で治療を始めることで生活の質を保ちやすくなるとされています。
尿量が増えると、トイレが早く汚れてしまい、きれい好きな猫が別の場所を選ぶことがあります。また、量そのものが増えれば、これまでの間隔では間に合わないことも出てきます。お漏らしと同時に「水を飲む量が増えた」と感じる場合は、受診を急いだほうがよいサインとされています。
目安として、国内の動物病院の解説では、体重1kgあたり1日100mL以上の飲水がはっきりした「多飲」の目安として紹介されています。ただし数値だけで判断する必要はなく、「その子の普段より明らかに増えた」という飼い主さんの感覚が、受診の十分な理由になるとも説明されています。水の減り方が気になるようでしたら、器に入れた量と残った量を数日記録しておくと、診察のときにそのまま伝えられます。
膀胱・尿道のトラブル|頻尿・血尿、そして「出ない」ときの緊急性
膀胱炎などの下部尿路のトラブルでは、頻尿、血尿、排尿時の痛み、トイレ以外での排尿といった変化がみられるとされています。細菌性の膀胱炎は高齢の猫や、腎臓病・糖尿病などをあわせ持つ猫で起こりやすいと説明されています。痛みがあるとトイレそのものを「痛い場所」と結びつけてしまい、避けるようになることもあると言われます。
この分野でとくに注意していただきたいのが、尿道閉塞です。国内の動物病院の解説では、何度もトイレに行くのにほとんど尿が出ない状態は緊急性が高く、完全に尿が出ない状態が24〜48時間続くと高カリウム血症や腎障害を起こし、命に関わることがあるとされています。オス猫は尿道が細く長いため起こりやすい傾向があるとも説明されています。「トイレに何度も行くのに出ていない」ときは、様子を見ずにその場で動物病院へご連絡ください。
関節の痛み|またぐ・しゃがむ動作がつらくなる
年を重ねた猫では、関節の変性が想像以上に多いことが分かってきています。日本の家庭猫101頭のレントゲン画像を調べた研究(Frontiers in Veterinary Science, 2020)では、四肢の関節に変性性関節疾患の所見が74.26%に認められ、加齢とともに増える傾向が示されたと報告されています。
関節に痛みがあると、トイレの縁をまたぐ、階段を下りる、砂の上でしゃがんで踏ん張るといった動作がつらくなります。コーネル大学猫健康センターも、関節炎のある猫はトイレにたどり着くこと自体が難しくなり、箱に入ること自体が痛みを伴うことがあるため、別の場所で排泄してしまうことがあると説明しています。猫は痛くても鳴かないことが多く、「動きが少し重くなった」程度にしか見えないことがあるとされている点も、覚えておきたいところです。
認知機能の低下|場所が分からなくなる・寝床の近くで済ませる
猫にも、加齢に伴う認知機能不全症候群(CDS)が知られています。獣医専門誌 Today's Veterinary Practice がまとめた解説では、Gunn-Moore らの2007年の報告として、11〜14歳の猫の28%に社会的な関わり方の変化がみられ、15歳を超えた猫では50%に目的のない行動や過剰な発声がみられたとされています。コーネル大学猫健康センターは、行動として明らかになるのは10歳以降が多いとしたうえで、見当識の低下、昼夜の逆転、夜中の大きな鳴き声などとともに、トイレ以外での排尿・排便を挙げています。
認知機能の変化がある猫では、トイレまで歩いていくのではなく、眠っている場所に近いところで済ませてしまう行動が報告されています。これは「覚えたことを忘れた」というより、方向や距離の感覚が変わってきているためだと説明されており、責める理由がないことが分かります。
様子を見ずに相談してほしいサイン

お漏らしが続いていること自体が、すでに受診をおすすめしたい状態です。そのうえで、次のような様子が重なっているときは、緊急度の高いものから順に相談してください。以下は獣医療機関が挙げている代表的なサインを整理したものです。ここに当てはまらなくても、いつもと違うと感じたら、それが受診の理由になります。
| 様子・サイン | 考えられること | 相談の目安 |
|---|---|---|
| 何度もトイレに行くのに尿がほとんど出ない | 尿道閉塞など、命に関わる状態の可能性 | その場で電話し、すぐ受診 |
| 排尿しようとして鳴く・うずくまる | 強い痛みを伴うトラブル | その日のうちに受診 |
| 尿の色が赤い・濁っている | 血尿、膀胱の炎症など | 当日〜翌日に相談 |
| 水を飲む量と尿の量が明らかに増えた | 腎臓病・糖尿病・甲状腺の変化など | 数日以内に受診 |
| お漏らしに加えて食欲低下・嘔吐がある | 全身の状態が動いている可能性 | その日のうちに相談 |
| 体重が少しずつ減っている | 慢性の病気が進んでいる可能性 | 次の診察を前倒しして相談 |
| 寝ている間に無意識に漏れている | 尿失禁として扱われる状態 | 数日以内に受診 |
| トイレの縁で立ち止まる・入るのをためらう | 関節の痛みなど、動作のつらさ | 次の診察で必ず伝える |
受診の際は、いつから、どこで、1日に何回くらいお漏らしがあるかを整理しておくと、診察がスムーズになります。スマートフォンで濡れた場所や尿の色を撮っておくのも役に立ちます。可能であれば尿を持参できるとよいのですが、無理に採ろうとして猫に負担をかける必要はありません。方法は病院で教えてもらえますので、まずは電話で相談してみてください。
トイレ環境を見直す5つのこと
受診で体の状態が分かったら、あるいは受診と並行して、家のトイレ環境をととのえていきます。高齢の猫にとってのトイレは、「またがない・迷わない・遠くない」の3つが揃っているほど使いやすいと考えられています。以下は一般的に紹介されている工夫ですが、療法食や治療を受けている場合は、変更前にかかりつけの獣医師にひとこと相談されると安心です。

1縁の低い容器に替える
コーネル大学猫健康センターは、シニア期の猫には縁の低いトイレ、あるいは入口を切り下げたトイレが必要になることがあるとしています。市販のシニア向けトイレのほか、浅い衣装ケースや、片側だけを低く加工した容器を使う方法も紹介されています。切り口で肌を傷つけないよう、縁をテープなどで保護しておくと安心です。
2数を増やし、寝床の近くにも置く
トイレの数は「猫の頭数+1個」が理想とされています。高齢の猫では、これまでどおりの場所に加えて、よく眠る場所や日中を過ごす部屋にもうひとつ置くと、移動距離が短くなって間に合いやすくなります。段差や階段をはさまない動線にすることも大切だとされています。
3広さは体長の1.5〜2倍を目安にする
AAFP(全米猫獣医師協会)とISFM(国際猫医学会)のガイドラインでは、トイレの大きさは猫の体長の1.5倍程度が推奨されており、国内の解説でも体長の1.5〜2倍の広さが目安として紹介されています。体の向きを変えられる広さがあると、関節に不安のある猫でも姿勢を取りやすくなります。
4砂は好みを変えず、深さを保つ
同ガイドラインでは、無香で固まるタイプの猫砂が好まれる傾向にあり、排泄物を埋められる深さを保つことが望ましいとされています。国内の解説では深さ5cm程度が目安として紹介されています。年をとってから急に砂の種類を変えると戸惑うことがあるため、変えるなら新しいトイレを1つ追加して選ばせる形にすると、猫の負担が小さくなります。
5こまめに片づけ、変更は一度にひとつずつ
尿量が増えている猫では、トイレが早く汚れます。汚れたままだと別の場所を選んでしまうことがあるため、掃除の回数を増やすことが対策になります。また、環境の変更は一度にひとつずつ進めるのが基本とされています。トイレも砂も場所も同時に変えてしまうと、何が合っていたのかが分からなくなります。
フード用の器や水飲み場との距離も見直しておきたい点です。食事の場所や寝床のすぐ隣にトイレがあると、猫は使うのをためらうことがあると説明されています。近くに置くとしても、少し離す、あるいは仕切りをはさむといった配慮があると使いやすくなります。
寝床の防水と、体を清潔に保つケア

お漏らしが続く時期は、寝床が濡れることが増えます。ここで飼い主さんが疲れきってしまわないよう、片づけを楽にする準備をしておくことが、結果的にその子のケアを長く続ける力になります。
寝床については、防水性のあるベッドや、カバーを外して洗えるタイプが手入れしやすいと紹介されています。ベッドの上にタオルやペットシーツを重ねて敷き、汚れた層だけを取り替えられるようにしておくと、丸洗いの頻度を減らせます。猫が別の場所にいるときにベッドごと風を通す、日に当てるといったことも、においがこもるのを防ぐうえで役立つとされています。
よく眠る場所やソファ、寝室のベッドなど、これまで汚れたことのある場所には防水シーツを敷いておくと、片づけが一段楽になります。猫は素材の感触にも好みがありますので、カサカサと音の出るものを嫌がる場合は、布地の防水シーツに替えると受け入れやすいことがあります。
体のケアもあわせて考えておきたい部分です。尿が皮膚についたままになると、皮膚炎や尿やけの原因になるとされています。お尻まわりや後ろ足の内側は皮膚が特にデリケートで、寝たきりに近い状態やおむつを使っている場合は蒸れやすくなります。ぬるま湯に浸したガーゼやタオルでやさしく拭き、そのあと水気をしっかり取っておくと、肌への負担が小さくなります。ごしごしこすらず、押さえるように拭くのがこつです。
被毛が長い子では、お尻まわりの毛を短く整えておくと汚れが付きにくくなります。ただし刃物を使う作業ですので、動くのが不安な猫では無理をせず、動物病院やトリミングサロンに相談されるほうが安全です。おむつの使用を考える場合も、締めつけや蒸れの問題があるため、獣医師に相談したうえで進めてください。皮膚が赤い、ただれている、においが変わったといった変化があるときは、自己判断でケアを続けず受診をおすすめします。
叱らないこと、片づけかたを変えること

お漏らしを見つけた瞬間、思わず声が出てしまうことはあると思います。それは、失望でも冷たさでもなく、驚きと戸惑いの反応です。ただ、猫に対しては、叱ることが解決につながらないことが分かっています。
日本ヒルズ・コルゲートの解説では、粗相は叱ってもおさまらず、むしろ叱ることで猫の不安が強まり、ストレスによる粗相が悪化することがあると説明されています。猫は「ここでしてはいけない」ではなく「飼い主さんがいると怖いことが起きる」と結びつけてしまうと言われており、隠れた場所で排泄するようになるなど、状況がかえって見えにくくなることもあります。まして、体の痛みや認知機能の変化が背景にあるときは、叱られても猫にはどうすることもできません。
片づけについても、少しだけ工夫の余地があります。においが残っていると同じ場所を繰り返し使ってしまうことがあるため、尿のにおい成分を分解するタイプの洗浄剤を使う方法が紹介されています。一方で、アンモニアを含む洗剤は尿のにおいに近く、その場所を排泄場所として印象づけてしまう可能性が指摘されているため、避けるほうが無難とされています。
そして、飼い主さんご自身のことも忘れないでください。夜中に何度も洗濯をし、朝起きるたびに床を確かめる暮らしは、静かに消耗していきます。防水シーツや洗い替えを多めに用意しておくこと、家族で分担すること、通院のたびに介護の相談もしておくこと。手を抜くことではなく、続けられる形にすることが、その子のためになります。
シニア期の変化と、向き合っていくために

お漏らしという変化は、飼い主さんにとって「この子が年を重ねた」という事実を、目に見える形で突きつけてくるものでもあります。濡れた寝床を片づけながら、うれしいはずのない気持ちが胸に広がったとしても、それは自然なことです。長く一緒に過ごしてきたからこそ、小さな変化がこたえるのだと思います。
同時に、お漏らしが始まったことは、その子の生活が終わりに向かっているという意味ではありません。原因が見つかって治療が始まれば落ち着く場合もありますし、トイレの高さを変えただけで元どおり使えるようになる猫もいます。今できるのは、痛みや不調を見逃さないことと、その子が困らない動線をつくってあげること。それだけで十分です。
シニア期には、口の中や食べ方など、ほかの場所にも少しずつ変化が現れます。同じ時期に気づきやすい変化を知っておくと、次に何かあったときも落ち着いて受け止めやすくなります。
また、高齢期に入ると、いつか訪れるお別れのことが頭をよぎる日もあるかもしれません。考えたくないと感じるのであれば、無理に向き合う必要はまったくありません。もし少しだけ心の準備をしておきたいと思われたときのために、そのときの流れをまとめた記事をご案内しておきます。読むタイミングは、ご自身が決めてくださって大丈夫です。
介護が続くと、まだお別れが来ていないのに気持ちが沈む、涙が出るという方もいらっしゃいます。それは弱さではなく、深く愛しているからこそ起きることだと言われています。ご自身の心がつらいときは、こちらもそっとご覧ください。
よくある質問
※本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状は動物病院にご相談ください。記載内容は執筆時点(2026年7月)に公開されている獣医療機関等の情報をもとにしています。
まとめ
高齢の猫のお漏らしは、しつけの問題でも、その子の性格が変わったからでもなく、体の変化が背景にあることが多いとされています。尿量が増える病気、膀胱や尿道のトラブル、関節の痛み、認知機能の低下——どれも外からは見分けられませんので、まずは動物病院で確かめることが、いちばん確実な最初の一歩になります。何度もトイレに行くのに尿が出ないときだけは、様子を見ずにその場でご連絡ください。
そのうえで、家でできることはそう複雑ではありません。縁の低いトイレにする、寝床の近くにも置く、体の向きを変えられる広さにする、砂は好みを変えずに深さを保つ、そしてこまめに片づける。あわせて寝床に防水シーツを敷き、お尻まわりを清潔に保ってあげれば、猫の不快も、飼い主さんの手間もやわらぎます。叱らないこと、においを残さず片づけること。この2つも、静かに効いてきます。
濡れた寝床を片づける手が、その子を責める手ではなく、そっと支える手であり続けられますように。