水槽のライトを消す前に、いつものように甲羅をそっとのぞきこむ。もう何年も続けてきたその時間のなかで、ふと「この子は、あとどれくらい生きるのだろう」と考えたことはないでしょうか。犬や猫とちがって、カメは十年たっても見た目がほとんど変わりません。だからこそ、寿命の見当がつきにくいものです。
「鶴は千年、亀は万年」ということわざのとおり、カメは長寿の象徴として語られてきました。実際、世界には人の一生をはるかにこえて生きた個体の記録が残っています。一方で、家庭で暮らすカメの寿命は種類によって大きく異なり、数十年で生涯を終える子もいます。
この記事では、亀の最高齢としてギネス世界記録に認定されている個体、日本の動物園で記録されてきた長寿の個体、そして飼育下で記録されている種類別の寿命を、公的機関や学術データベースが公開している情報にもとづいて整理しました。あわせて、人より長く生きる可能性があるからこそ考えておきたい「飼い主が先に亡くなったときの引き継ぎ」についても、静かに触れています。


一言でいうと、亀の最高齢はギネス世界記録に認定されているセイシェルゾウガメの「ジョナサン」で、1832年ごろの生まれとされ、2026年時点でおよそ194歳です。ただしこれはゾウガメという特別に長命な種の記録で、ご家庭で飼われることの多いカメの寿命はこれよりずっと短くなります。
亀の最高齢はギネス世界記録で194歳|セイシェルゾウガメの「ジョナサン」
現在確認されている亀の最高齢は、南大西洋の孤島セント・ヘレナ島で暮らすセイシェルゾウガメの「ジョナサン」です。ギネスワールドレコーズは、ジョナサンを「現存する最高齢の陸生動物」であり「最高齢のカメ」でもある個体として認定しています(Guinness World Records)。

ジョナサンの正確な誕生日は分かっていません。ギネスワールドレコーズの記録によれば、1882年に島へ運ばれてきた時点ですでに完全に成熟した個体であり、そこから逆算して少なくとも50歳にはなっていたと考えられています。この控えめな見積もりから、1832年ごろの生まれとされ、2026年時点でおよそ194歳という年齢が算出されています(Guinness World Records)。実際にはもっと年上である可能性もあると説明されています。
1882年の写真に、すでに成体の姿が残っている
ジョナサンの年齢がここまで具体的に語られるのは、1882年から1886年ごろに撮影された写真に、すでに成体となった姿が写っているためです。年齢を裏づける物証があるという点で、ほかの「長寿伝説」とは性質が異なります。
高齢になった現在は、白内障のため視力をほとんど失い、においを感じる力も衰えているとされます。それでも食欲は保たれており、週に一度、専任のスタッフが手ずから果物や野菜を与えていると伝えられています。年齢を重ねても静かに日々が続いているという事実は、長寿の記録としてだけでなく、老いた命との向き合い方としても心に残ります。
これまでに記録された、ほかの長寿の亀
ジョナサン以前に「最高齢のカメ」として知られていたのは、トンガ王室で飼育されていたホウシャガメの「トゥイ・マリラ」です。1777年ごろにキャプテン・クックからトンガの王室に贈られたと伝えられ、1965年に亡くなるまで少なくとも188歳まで生きたとされています(Guinness World Records)。
なお、インド・コルカタの動物園で2006年に亡くなったアルダブラゾウガメ「アドワイチャ」については、250歳前後だったという話が広く伝えられています。ただしこの年齢は逸話にもとづくもので、学術的には確認されていないとされています(AnAge)。「◯◯歳のカメ」という話を見かけたときは、年齢の根拠がどこにあるのかを確かめてみると、情報の見え方が変わってきます。
日本で記録されている長寿の亀|上野動物園のガラパゴスゾウガメ
日本国内にも、長く飼育されてきたカメの記録があります。よく知られているのが、上野動物園(東京都)で暮らすガラパゴスゾウガメです。

東京動物園協会が運営する東京ズーネットは、2018年に「長年飼育・長寿動物」のお祝い看板を設置したことを伝えています。そこでは、ガラパゴスゾウガメの「太郎」が飼育49年・推定89歳、「カメ吉」が飼育58年・推定78歳として紹介されました。太郎は同園の最長老の動物、カメ吉は同園でもっとも飼育年数が長い動物とされています(東京ズーネット)。
興味深いのは、同園がこのとき太郎について「ゾウガメとしてはまだ壮年です」と紹介していることです。人の感覚では大変な高齢に思えますが、ゾウガメという種にとっては人生の折り返しあたり、ということになります。カメの時間の流れが、私たちのそれとどれほど違うのかが伝わってきます。
ガラパゴスゾウガメは甲羅の長さが1m〜1.3mほど、体重は最大で270kgに達する種で、リクガメのなかでも最大級とされています(上野動物園)。日本で見られる機会は限られますが、実際に対面すると、その大きさと動きの静けさに圧倒されます。
飼育下の亀の寿命は種類でどれくらい違う?【早見表】
ここからは、ご家庭で飼われることの多いカメの寿命を見ていきます。前提としてお伝えしたいのは、寿命の数値は「これまでに記録された最長の年齢」であって、平均寿命ではないということです。同じ種類でも、飼育環境や個体差によって大きく変わります。

下の表は、老化・寿命の研究者が公開している学術データベース「AnAge(Human Ageing Genomic Resources)」に登録されている、飼育下での最長寿命の記録をまとめたものです。
| 種類 | 飼育下で記録された最長寿命 | データの確からしさ | 備考 |
|---|---|---|---|
| ニホンイシガメ | 16年 | サンプル数が少ない | 記録が少なく、実際の上限はこれより長い可能性がある |
| クサガメ | 24年 | サンプル数は中程度 | 成体で捕獲された個体の記録のため、実年齢はさらに上と考えられている |
| ミシシッピアカミミガメ | 41年 | サンプル数が多い | 野生では30年ほどとされる。いわゆるミドリガメ |
| ケヅメリクガメ | 54年 | サンプル数が多い | 大型のリクガメ。飼育設備も大きくなる |
| アルダブラゾウガメ | 152年 | サンプル数が多い | 捕獲時すでに成体で、実際は180歳前後だったと推定されている |
出典はいずれもAnAgeの各種ページです(ミシシッピアカミミガメ/クサガメ/ニホンイシガメ/ケヅメリクガメ/アルダブラゾウガメ。いずれも執筆時点の掲載内容)。
ミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)は飼育下で41年の記録
縁日などで親しまれてきたミドリガメは、正しくはミシシッピアカミミガメといいます。AnAgeには飼育下で41.3年という記録が登録されており、野生では30年ほどとされています。手のひらにのる大きさで迎えた子が、20年、30年と生活をともにする可能性があるという点は、飼いはじめる前に知っておきたいところです。
大切なのは、この種が2023年6月1日から「条件付特定外来生物」に指定されている点です。環境省の説明によれば、一般家庭でペットとして飼育している個体は、これまでどおり飼い続けることができ、申請や許可、届出は必要ありません。一方で、販売・購入・頒布・輸入は原則として禁止され、野外へ放すことも法律で禁じられています。違反すると罰則の対象になるとされています(環境省)。
無償で譲り渡すこと自体は申請なしで可能とされていますが、環境省は「責任をもって飼うことのできる相手を探してください」と呼びかけています。飼えなくなったときに池や川へ放すという選択は、法律上も、生態系の面でも、決してとってはいけないものです。
クサガメ・ニホンイシガメは20年をこえて生きることがある
日本の水辺で見られるクサガメは、AnAgeに24.2年という飼育下の記録があります。ただしこの個体は野生で捕獲されたときすでに成体だったため、実際の寿命はこれより長いと考えられると注記されています。ニホンイシガメの登録値は16.2年ですが、こちらはサンプル数が少ないとされており、上限を示す数字として読むには慎重さが必要です。
いずれにしても、水生のカメは20年前後、環境によってはそれ以上を一緒に過ごすことになる生きものです。お子さんが小学生のときに迎えた子が、成人して家庭を持つころにもまだ元気でいる——そうした時間の長さを想像しておくと、迎えるときにも、途中で環境が変わるときにも、落ち着いて考えられます。
リクガメは50年をこえる種もいる
ペットとして流通するリクガメのなかでも、ケヅメリクガメは飼育下で54.3年という記録が登録されています。甲羅が大きく育つため、成長にあわせて飼育スペースや温度管理の設備も大がかりになっていきます。
そしてゾウガメの仲間になると、桁が変わります。アルダブラゾウガメは飼育下で152年という記録があり、しかもその個体は捕獲時にすでに成体だったため、実際には180歳前後だったと推定されています。飼い主が生涯かけても看取れない可能性がある種が、確かに存在するということです。
カメが長生きだといわれる理由|「老化がほとんど進まない」種がある
なぜカメはこれほど長く生きるのでしょうか。近年、その手がかりとなる研究が報告されています。

2022年、科学誌『Science』に掲載されたda Silvaらの研究では、世界の動物園・水族館で飼育されているカメ類52種のデータが解析されました。その結果、およそ4分の3の種で老化が非常に緩やか、あるいはほとんど認められない(negligible senescence)という傾向が示されています(Science, 2022)。約8割の種では、老化の進み方が現代の人間よりも遅いと報告されました。
ここで気をつけたいのは、「老化がほとんど進まない」ことと「死なない」ことは別だという点です。研究が示しているのは、年齢が上がっても死亡リスクがそれほど増えていかないという傾向であって、病気やけが、環境の悪化で命を落とすことはあります。飼育下で長生きしている個体が多いのは、環境が整えられていることの影響も大きいと考えられています。
つまり、カメの長寿は「放っておいても長生きする」という意味ではありません。適した温度、清潔な水、十分な光。そうした条件がそろってはじめて、その種が本来もっている時間が発揮されるということです。
飼っているカメに長く元気でいてもらうためにできること
ここからは、日々の暮らしのなかで意識しておきたいことを整理します。カメは変温動物で、体温を自分でつくることができません。そのため、環境そのものが体調を左右するといわれます。

1温度を切らさない環境をつくる
自分で体温を調節できないため、水温や気温が下がると食欲や消化に影響が出るとされています。とくに季節の変わり目や、夜間に室温が下がる時期は注意が必要です。ヒーターを使う場合は、日中と夜間それぞれの温度を実際に測って確かめておくと安心です。
2光と、体を乾かせる陸場を用意する
甲羅や骨の健康には、紫外線と、体を完全に乾かせる時間が欠かせないとされています。水生のカメでも、全身がのって乾かせる広さの陸場を用意します。屋内飼育で日光が届かない場合は、爬虫類用の照明を使う方法があります。
3水と住まいを清潔に保つ
水がにごると、皮膚や目のトラブルにつながることがあるとされています。ろ過装置に頼りきらず、水の量とにごり具合を毎日確かめる習慣をつけておくと、変化に早く気づけます。
4食事は種類と年齢に合わせ、与えすぎない
必要な栄養は種類や年齢によって変わります。人の食べ物は与えないでください。何をどれだけ与えるか迷ったときは、爬虫類を診られる動物病院に相談すると確実です。
5体重と甲羅の様子を記録しておく
見た目の変化が乏しいカメは、不調のサインも分かりにくいものです。体重、甲羅の状態、食べた量を月に一度でも記録しておくと、「いつからおかしいのか」を獣医師に伝えられます。
6診てもらえる動物病院を、元気なうちに探しておく
カメを診察できる動物病院は、犬や猫にくらべると限られます。体調を崩してから探しはじめると間に合わないことがあるため、元気なうちに近隣で対応してくれる病院を確認しておくことをおすすめします。
食欲が落ちた、動きが鈍い、目が開きにくいといった変化に気づいたときは、自己判断で様子を見続けずに動物病院にご相談ください。冬の時期は冬眠と体調不良の区別がつきにくく、判断には専門的な知識が必要とされています。
人より長く生きるかもしれないからこそ|飼い主が先に亡くなったときの引き継ぎ
ここまで見てきたとおり、カメは人の一生に近い時間を生きることがあります。そうなると、避けて通れないのが「自分が先にいなくなったら、この子はどうなるのか」という問いです。縁起でもない話に思えるかもしれませんが、これは長命な生きものを迎えた人だけが向き合える、責任のかたちだと思います。

動物の愛護及び管理に関する法律では、動物の所有者は、できる限りその動物が命を終えるまで適切に飼養すること(終生飼養)に努めなければならないと定められています(第7条第4項)。飼えなくなったからといって、自治体が当然に引き取ってくれるわけではなく、終生飼養に反する理由での引き取りは拒否できるとされています(環境省)。
だからこそ、元気なうちに「引き継ぎ先」を考えておくことに意味があります。考えておきたいのは、次のようなことです。
| 備えておくこと | 具体的にすること | ポイント |
|---|---|---|
| 引き継ぐ人を決めておく | 家族・親族・友人に、あらかじめ意思を確認しておく | 「頼めるはず」ではなく、はっきり承諾を得ておく |
| 飼育の記録を残す | 種類、飼いはじめた年、温度設定、餌の種類と頻度、かかりつけの病院をノートにまとめる | 引き継ぐ人が困らないよう、専門的な設定ほど文字にしておく |
| 飼育費用の見通しを立てる | 設備の電気代、餌代、通院費のおおよその年間額を書き添える | 長命な種ほど、金額の積み上がりを共有しておく |
| 法的な取り決めを検討する | 遺言による負担付遺贈や、負担付死因贈与といった方法がある | 民法第1002条など。個別の可否は専門家に相談する |
| 受け入れ先の候補を調べる | 爬虫類を扱う専門店、保護団体、動物病院に相談できるか確認する | 実在と運営状況を確かめたうえで、事前に問い合わせておく |
民法には、財産を受け取る人に一定の義務を負わせる「負担付遺贈」の規定があります(e-Gov法令検索・民法第1002条)。ペットの世話を条件に財産を遺す方法として紹介されることがありますが、義務の内容や履行の確認方法など、決めておくべきことが少なくありません。実際に取り決めをする場合は、弁護士や行政書士、公証役場といった専門家にご相談ください。この記事でお伝えできるのは、そうした選択肢が存在するというところまでです。
そして、どれほど準備をしても、順番はどちらになるか分かりません。だからこそ、いま元気に過ごしているのなら、その時間をどうか大切になさってください。備えは、今日を安心して過ごすためのものです。
カメとのお別れと、そのあとのこと
長く生きる生きものであっても、別れの日はいつか訪れます。何十年も一緒に暮らしたカメを見送ることは、犬や猫を見送るときと変わらない、大きな喪失です。

「たかがカメで」と、ご自身の悲しみを小さく見積もってしまう方もいらっしゃいます。けれど、毎日水を替え、餌を用意し、季節ごとに温度を気にかけてきた年月は、その子と過ごした確かな時間です。悲しみの大きさは、動物の種類では決まりません。
お別れのあとについては、多くのペット霊園・火葬業者が犬や猫以外の小動物にも対応しています。ただし対応できる動物の種類や大きさ、料金は業者によって異なるため、事前に確認が必要です。ご自宅の敷地に埋葬する場合は、他人の土地や公園、河川敷には埋められないことなど、いくつか注意点があります。
気持ちが落ち着かない日が続くときは、無理に前を向こうとしなくて構いません。時間のかかり方には、人それぞれの速さがあります。
よくある質問
※本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状は動物病院にご相談ください。また、法制度や手続きに関する記載は執筆時点(2026年7月)に公開されている公的機関の情報にもとづくもので、個別のご事情については専門家にご確認ください。
まとめ
亀の最高齢としてギネス世界記録に認定されているのは、セイシェルゾウガメの「ジョナサン」です。1832年ごろの生まれとされ、2026年時点でおよそ194歳。1882年の写真にすでに成体の姿が残っているという、根拠のある記録です。日本でも、上野動物園のガラパゴスゾウガメ「太郎」が2018年時点で推定89歳と紹介されています。
一方、ご家庭で飼われることの多いカメの寿命はもっと短く、飼育下の記録ではクサガメが24年、ミシシッピアカミミガメが41年、ケヅメリクガメが54年です。これらは記録の上限であり、平均ではありません。温度、光、清潔な水、その子に合った食事という土台が、その種の持つ時間を支えます。
そして、人の一生に近い年月を生きる可能性があるということは、「自分が先かもしれない」という前提で考えておく必要があるということでもあります。引き継ぐ人を決めておくこと、飼育の記録を残しておくこと。それは不吉な準備ではなく、その子の明日を守るための静かな仕事です。
今日もそばにいてくれるその子と、穏やかな時間が長く続きますように。そしていつか見送る日が来たときにも、あなたの心がやわらかくほどけていきますように。