夜中にふと目が覚めると、隣で眠っていたはずの愛犬が、はあはあと肩で息をしている。エアコンは効いているし、散歩から帰ってきたわけでもない。しばらく見守っていると落ち着くこともあれば、朝までずっと続いていることもある——高齢の犬と暮らしていると、そんな場面に出会うことがあります。
はあはあという呼吸(パンティング)は、犬にとってごく自然な体温調節の方法でもあります。ただ、シニア期に入った犬の場合、暑さや興奮といった生理的な理由と、心臓や呼吸器、痛み、ホルモンの病気といった体の不調とが、同じ「はあはあ」という形で現れることが知られています。見た目が似ているぶん、飼い主さんが自分で線を引くのは難しく、「年のせいかもしれない」と受け止めてしまいやすい変化でもあります。
この記事では、高齢の犬のパンティングの背景として知られていることを、生理的なものと病気に関連するものの両方から整理し、迷ったときの手がかりになる安静時の呼吸数の数え方、そして様子を見ずに動物病院へ連絡したいサインをお伝えします。当メディア編集部が、保険会社や動物病院、大学の獣医学部が公開している解説をもとにまとめました。診断も治療も獣医師の領域ですので、この記事は「気づく」「落ち着いて相談する」ためのものとしてお読みいただければ幸いです。


一言でいうと、高齢の犬のはあはあは「暑さ・運動・興奮による体温調節」のこともあれば、心臓・呼吸器・痛み・ホルモンの病気などが背景にあることもあり、見分けの手がかりは「きっかけの有無」と「休ませて治まるかどうか」だとされています。年齢だけで説明せず、安静時の呼吸数という客観的な数字を手元に持っておくと、獣医師に相談しやすくなります。
高齢の犬がはあはあするのは、どういうときか

犬は人のように全身で汗をかくことができず、汗腺は肉球など限られた部分にしかないとされています。そのため、口を開けて浅く速く呼吸し、舌や口の中の水分を蒸発させることで熱を逃がします。これがパンティングと呼ばれる呼吸で、暑い日や運動のあとに見られるのは、体温を下げるための正常な働きです。
シニア期に入ると、この仕組みが以前ほどうまく働きにくくなると説明されています。筋肉量が落ちる、自律神経の反応が鈍くなる、呼吸に使う筋肉や肺の弾力性が衰える——といった変化が重なることで、若いころなら平気だった室温でも、はあはあが長引きやすくなるとされています。一度に取り込める酸素の量が減るぶん、呼吸の回数で補おうとして浅く速い呼吸になりやすい、という説明もよく見られます。
つまり、高齢の犬のパンティングには「加齢による体温調節のしにくさ」という側面が確かにあります。ただ、それは「年だから放っておいてよい」という意味ではありません。同じ加齢を背景に、心臓や気道、ホルモンの病気も増えていく時期だからです。ここから先は、生理的な呼吸と、体からの合図かもしれない呼吸を、どう見分けていくかを見ていきます。
生理的なパンティングと、気をつけたいパンティングの違い

獣医師監修の解説で共通して挙げられているのは、「きっかけがあるか」と「休ませて治まるか」という2つの視点です。この2点は、飼い主さんが家で観察できる、数少ない手がかりでもあります。
体温調節によるパンティング
暑い日、散歩や遊びの直後、来客やインターホンで興奮したあと、動物病院への移動で緊張したあと。こうした思い当たるきっかけがあり、涼しい静かな場所で休ませると数分から十数分で落ち着いてくる場合は、体温調節や一時的な興奮によるものと考えられています。落ち着いたあとは普段どおりの様子に戻り、舌や歯ぐきの色もいつもと同じ健康的なピンク色をしています。
ただし、暑さによるパンティングも、程度によっては熱中症の入り口になります。過度なパンティングは熱中症の初期症状として挙げられており、ぐったりする、よだれが多い、嘔吐や下痢がある、口の中や舌が青紫色になるといった様子が加わった場合は、緊急性が高い状態とされています。「暑いからはあはあしているだけ」と決めつけず、涼しい場所へ移して様子を確かめることが大切です。
気をつけたいパンティング
一方で、思い当たるきっかけがないのにはあはあが始まる、涼しい室内でも続く、休ませても治まらない、夜間や睡眠中にも続く、という場合は、体の内側で何かが起きている可能性があるとされています。とくに眠っているときや、静かに横になっているときの呼吸が速いまま治まらない状態は、複数の獣医療の解説で受診の目安として挙げられています。
あわせて見ておきたいのが、パンティング以外の変化です。咳が出る、散歩を嫌がる・すぐ座り込む、失神するようなことがある、水を飲む量や尿の量が増えた、食欲や体重が変わった、歯ぐきの色が薄い——こうした様子が重なるほど、体調の変化として受け止める必要が出てきます。次の章では、その背景として知られている病気を並べて整理します。
高齢の犬のパンティングの背景として知られる主な病気

ここで挙げるのは、獣医療の解説の中で「呼吸が速い・荒い」と関連づけて説明されることの多い状態です。どれも家庭で見分けることはできず、確定できるのは検査を行った獣医師だけとされています。あくまで、受診前に「どんな可能性があるのか」を知り、落ち着いて相談するための整理としてお読みください。
| 背景として挙がるもの | 呼吸に現れやすい様子 | あわせて見られることのある変化 | 動物病院で行われる主な確認 |
|---|---|---|---|
| 心臓の病気 | 安静時・睡眠中も呼吸が速い、浅い | 咳、疲れやすい、失神、横になりたがらない | 聴診、レントゲン検査、心臓の超音波検査 |
| 呼吸器・気道の病気 | ガーガーという音、苦しそうな呼吸 | 咳、興奮時や暑い日に悪化する | 聴診、レントゲン検査、内視鏡での確認 |
| 痛み・不快感 | 落ち着かず、断続的にはあはあする | 触られるのを嫌がる、姿勢や歩き方の変化 | 触診、整形・神経学的検査、画像検査 |
| クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症) | 暑くないのにパンティングが増える | 多飲多尿、食欲増加、腹部の張り、脱毛 | 血液検査、超音波検査、ホルモン検査 |
| 貧血 | 少し動いただけで息が上がる | 歯ぐきや舌が白っぽい、元気がない | 血液検査、原因を調べるための各種検査 |
| 熱中症 | 激しいパンティングが続く | ぐったり、よだれ、嘔吐や下痢、チアノーゼ | 体温測定、血液検査、状態に応じた処置 |
心臓の病気|シニア期にもっとも多いとされる心臓病から
犬でもっとも多い心臓病として知られているのが僧帽弁閉鎖不全症で、とくに高齢の小型犬に多く見られると説明されています。心臓の弁がきちんと閉じず血液が逆流する状態で、初期は無症状のまま経過することも多いとされています。進行して肺に水がたまる肺水腫の状態になると、呼吸が速く浅くなる、肩で息をするような様子が見られる、と解説されています。
心臓の病気が疑われる場合に、飼い主さんが家でできる観察として広く紹介されているのが、次の章でお伝えする安静時・睡眠時の呼吸数の記録です。米国タフツ大学獣医学部の心臓病の在宅モニタリングの解説でも、呼吸数の変化を家庭で追うことが治療の調整に役立つとされています。
呼吸器・気道の病気|気管虚脱や喉頭麻痺など
気管がつぶれるように変形する気管虚脱は、遺伝的な素因のほか、肥満や加齢が関わるとされ、暑さ・興奮・ストレスが症状のきっかけになることがあると説明されています。ガチョウの鳴き声のような咳が特徴として挙げられ、重い場合には呼吸困難やチアノーゼ、失神につながることもあるとされています。
喉頭麻痺は、中高齢の大型犬に多いとされる状態で、ラブラドール・レトリバーやゴールデン・レトリバーで知られていますが、小型犬で見つかることもあると説明されています。確認には麻酔下での喉頭の観察が必要とされ、急性期には安静と酸素の管理、状態によって外科的な処置が検討されると解説されています。
痛み・不快感|「はあはあ」が痛みのサインになることも
犬は痛みを声や表情で強く訴えないことが多く、代わりに呼吸が浅く速くなる、落ち着かずうろうろする、といった形で表れることがあるとされています。シニア期は関節や背骨の変化、歯や口の中のトラブル、腹部の不調など、痛みの原因が増える時期でもあります。触られるのを嫌がる場所がある、立ち上がり方や歩き方が変わったといった変化が同時に見られるときは、痛みの可能性も含めて相談していただくとよいでしょう。
クッシング症候群|高齢犬に多く、加齢と見分けにくい
副腎皮質から分泌されるホルモンが過剰になる状態で、高齢の犬を中心に多く見られるため、加齢による変化と見過ごされやすいと説明されています。もっとも高い頻度で見られる症状は多飲多尿で、9割以上の症例で確認されるとする解説もあります。あわせて、パンティングが増える、食欲が異常に増す、お腹がぽっこりと膨らむ、皮膚が薄くなる、左右対称に毛が抜けるといった様子が挙げられています。
診断には血液検査や超音波検査に加え、ACTH刺激試験や低用量デキサメタゾン抑制試験といったホルモン検査が用いられると説明されています。家庭で判断できるものではありませんが、「水をよく飲むようになった」「暑くないのにはあはあする」という2つが重なっているときは、受診の際にその点を伝えていただくと診察の手がかりになります。
貧血|歯ぐきの色が手がかりになることがある
血液が運べる酸素の量が減るため、体が呼吸の回数で補おうとして息が上がりやすくなるとされています。少し動いただけで疲れる、元気がない、歯ぐきや舌が白っぽい、といった様子が挙げられます。貧血の背景にはさまざまな原因があり、血液検査で状態を確認したうえで、その原因を調べる検査が進められるのが一般的です。
すぐに動物病院へ連絡したいサイン

ここまで「見分ける」という話をしてきましたが、次に挙げるものは見分ける前に連絡していただきたいサインです。獣医師監修の解説では、いずれも命に関わることがある状態として挙げられています。
様子を見ずに動物病院へご連絡ください
- 舌や歯ぐきの色が青白い、または紫がかっている(チアノーゼ=酸素が足りていない可能性)
- 速い呼吸が治まらない(涼しい場所で休ませても、睡眠中も続く)
- 横になれない・伏せられない、首を前に伸ばして呼吸する、体全体を使って呼吸する(努力性呼吸)
- 失神する、ふらつく、倒れる、呼びかけへの反応が鈍い
- 「ガーガー」という苦しそうな呼吸音がする
連絡の際は、いきなり連れて行くより先に、まず電話で状況を伝えることをおすすめします。呼吸が苦しい状態の犬は、移動そのものが負担になることがあります。到着までに準備しておいてもらえること、来院時の入り口や待ち方など、その病院ごとの指示を受けられるためです。夜間や休診日に備えて、かかりつけの緊急時の連絡先と、近くの夜間救急動物病院の場所を、あらかじめ携帯電話に登録しておくと安心です。
また、涼しい場所へ移す、静かにする、水を飲めるようにするといった対応は家庭でもできますが、氷水で急激に冷やす、自己判断で人用の薬を与える、といった対応は避けるべきとされています。判断に迷う対応は、電話で獣医師に確認してください。
安静時の呼吸数の数え方と、記録のしかた

「はあはあしている気がする」という感覚は、伝えようとすると案外あいまいになります。そこで役立つのが、安静時・睡眠時の呼吸数という数字です。特別な道具はいらず、時計かスマートフォンがあれば数えられます。
目安として、アニコム損害保険が公開している獣医師監修の解説では、犬の正常な呼吸数を安静時(立った状態)で1分間に20〜34回、睡眠時で1分間に18〜25回としています。小型犬のほうが大型犬より多い傾向があるとも説明されています。また、米国のVCA Animal Hospitalsは、心臓病の在宅モニタリングの解説として、落ち着いているときや眠っているときの呼吸数は1分間に15〜30回が正常であり、30回を超える状態が続くようならできるだけ早く獣医師に連絡するよう案内しています。米国タフツ大学獣医学部の解説では、同院の患者について安静時に35〜40回を超える場合に連絡するようにと、やや幅のある目安が示されています。
数値の幅からも分かるとおり、何回なら安心という一律の線引きはありません。大切なのは、その子自身の「いつもの数字」を知っておき、そこから増えていないかを見ることです。数え方は次のとおりです。
1落ち着いているとき・眠っているときに数える
運動や興奮の直後は自然に呼吸が速くなります。静かに横になっているとき、または眠っているときに数えてください。同じ条件で測ることで、日ごとの比較ができるようになります。
2胸が1回ふくらんでへこむまでを「1回」と数える
胸やお腹の動きを見て、息を吸って吐くまでの一往復を1回と数えます。手を触れる必要はなく、離れたところから見ているだけで十分です。
330秒数えて2倍にする(または60秒数える)
30秒間の回数を数えて2倍すると1分あたりの呼吸数になります。落ち着いていられるなら、60秒そのまま数えてもかまいません。
4日付とともに記録し、変化があれば相談する
ノートやカレンダー、スマートフォンのメモに日付と回数を残します。数字が続けて増えている、いつもより明らかに多い、という変化に気づいたら、その記録を持って動物病院にご相談ください。
心臓の病気で治療を受けている場合、この呼吸数の記録は、薬が効いているかどうかを知る手がかりとして獣医師から求められることがあります。動画で呼吸の様子を撮っておくと、診察室では落ち着いてしまって再現できないときにも役立ちます。
家でできる環境の工夫と、受診前に整えておきたいこと

病気の治療は獣医師の領域ですが、呼吸の負担を増やさない環境づくりは家庭でできることです。ここでは、シニア期の犬と暮らすうえで無理なく取り入れやすい工夫を挙げます。
1室温と湿度を、若いころより一段やさしく
体温調節が働きにくくなる時期です。エアコンや除湿で温度と湿度を一定に保ち、犬が自分で移動できるよう、涼しい場所と温かい場所の両方をつくっておくと安心です。床に近いところは体感温度が変わるため、犬の高さで確かめてみてください。
2散歩の時間帯と距離を見直す
日中の暑い時間帯を避け、アスファルトの熱さも手で確かめてから出かけます。距離や時間は、その日の体調に合わせて短くしてかまいません。歩きたがらない日を無理に歩かせないことも、呼吸の負担を減らす工夫のひとつです。
3興奮の場面をやわらげる
来客やインターホン、急な物音は、シニア期の犬にとって呼吸が上がるきっかけになります。落ち着ける場所を用意しておく、寝ている場所を人の動線から少し離すといった調整が助けになります。
4体重と首まわりへの負担を確認する
体重の増加は呼吸の負担につながるとされ、気管の状態にも関わると説明されています。食事量の見直しは獣医師に相談しながら進め、散歩では首輪よりハーネスのほうが気道への負担が少ないとされる点も覚えておくとよいでしょう。
5受診の前に、伝えることをメモにまとめる
いつから、どんなときに、どれくらい続くか。安静時の呼吸数、水を飲む量、食欲、体重、咳や失神の有無。この6点をメモにしておくと、限られた診察時間でも状況が正確に伝わります。呼吸の様子を撮った短い動画があればなお確かです。
健康診断の間隔も、この時期に見直しておきたいことのひとつです。シニア期は半年に一度を目安にすすめられることが多く、心臓の音や血液検査の数値の変化は、症状として現れる前に見つかることがあります。「変わりない」と確認できること自体が、これからを穏やかに過ごすための材料になります。
シニア期の呼吸の変化と、そっと向き合っていくために

呼吸の変化を数えたり記録したりしていると、その数字に心が引っ張られてしまうことがあります。夜中に何度も目を覚まして胸の動きを確かめてしまう、外出中も気がかりで落ち着かない——そんなふうに過ごされている方は少なくありません。それは、その子を大切に思っているからこそのことです。
ただ、記録は不安を増やすためのものではなく、獣医師と一緒に判断するための材料です。毎日きちんと測れなくてもかまいませんし、測れなかった日があっても、その子の状態が変わるわけではありません。数字が気になりすぎるときは、記録の頻度を減らすこと自体を、かかりつけの獣医師に相談してみてください。飼い主さんが休めることも、その子の暮らしを支える一部です。
治療によって呼吸が落ち着き、穏やかな時間を長く過ごせるケースもあれば、病気の進行とともに、呼吸を楽にすることが暮らしの中心になっていくこともあります。どの段階にいても、獣医師と相談しながら「その子がいちばん楽に過ごせる形」を選んでいくことに変わりはありません。もし、これから先のことを少しずつ考えておきたいと感じたときのために、次の2つの記事もご用意しています。
また、看取りの前後は、飼い主さん自身の心が大きく揺れる時期でもあります。呼吸を見守る日々のなかで気持ちが重くなってきたときは、こちらもそっとご覧ください。
よくある質問
※本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状は動物病院にご相談ください。
まとめ
高齢の犬のはあはあは、暑さや運動、興奮による体温調節のこともあれば、心臓・呼吸器・痛み・クッシング症候群・貧血といった体の状態が背景にあることもあるとされています。見分けの手がかりになるのは、きっかけがあるかどうかと、休ませて治まるかどうか。そして、落ち着いているときの呼吸数という客観的な数字です。
舌や歯ぐきの色が青白い・紫がかっている、速い呼吸が治まらない、横になれない、失神する——このいずれかが見られるときは、様子を見ずに動物病院へご連絡ください。判断は獣医師に委ね、飼い主さんは「気づいて、伝える」役割を担っていただければ十分です。
年齢を重ねた体は、若いころとは違う速さで季節や一日の変化に応えています。その呼吸のひとつひとつに気づいてあげられることは、長く一緒に暮らしてきた飼い主さんだからこそできることです。今日も明日も、穏やかな呼吸で眠れる夜が、少しでも長く続きますように。