夜中に部屋の中をぐるぐると歩き回る。落ち着いて眠らず、何度もトイレと寝床を往復する。呼んでも上の空で、また立ち上がって動き出す——。高齢の猫が「うろうろする」ようになると、見ている飼い主さんのほうが眠れなくなってしまうことがあります。
この行動は、加齢による認知機能の変化として語られることが多いのですが、実際には体の不調が背景にあることも少なくありません。落ち着きなく動き回るという同じ見え方の裏に、甲状腺の働きの変化、血圧の問題、痛み、目の見えにくさ、排尿・排便の困りごと、空腹や不安など、さまざまな事情が隠れていることがあると獣医療の情報では説明されています。
大切なのは、原因をご自身で言い当てることではなく、動物病院で相談するときに役立つ材料を落ち着いて集めることです。この記事では、猫の健康情報に詳しい当メディア編集部が、獣医師会や動物病院、猫医療の国際的なガイドラインの公開情報を調べ、うろうろする様子から何を確かめるとよいのか、どう記録し、どう伝えるとよいのかを整理しました。急いで受診したほうがよい場面についても、はじめにお伝えします。


一言でいうと、高齢猫のうろうろは「認知症かどうか」を先に決めるのではなく、体の不調が隠れていないかを確かめることから始めるのが基本とされています。そのために、飼い主さんにできるのは「観察して記録すること」と「動画を撮っておくこと」の2つです。
高齢猫がうろうろするとき、まず確かめたい急ぐサイン
落ち着きなく動き回る様子のなかには、時間をおかずに動物病院へ連絡したほうがよい状態が含まれることがあります。特に注意が必要だと複数の動物病院が案内しているのが、トイレに何度も行くのに尿がほとんど出ていないという場合です。尿道が詰まってしまう尿道閉塞では、痛みや苦しさから落ち着かずにうろうろする、鳴く、トイレの周りから離れないといった様子が見られると説明されており、尿が出ない状態が続くと短時間で全身の状態が悪くなるため、発症から24時間以内の治療が必要な緊急性の高い状態とされています(国内の動物病院各院の解説より)。特に去勢したオス猫で起こりやすいと案内されています。
そのほか、体を触ろうとすると強く嫌がる、呼吸が速い・口を開けて呼吸している、ふらつく、けいれんのような動きがある、壁にぶつかりながら歩く、瞳孔が開いたままで物にぶつかる、といった様子がある場合も、その日のうちに相談したい状態として挙げられています。逆に、食欲や排泄がふだんどおりで、動き回るのが特定の時間帯に限られるようであれば、記録を取りながら受診の予約を取るという進め方ができます。

ここに挙げたのはあくまで一般的な目安で、当てはまらないから安心という意味ではありません。判断に迷うときは、かかりつけの動物病院に電話で様子を伝え、受診のタイミングを相談するのがもっとも確実です。
落ち着きなく動き回る背景として知られていること
「うろうろする」という行動は、猫にとって何かを訴える数少ない手段のひとつです。獣医療の公開情報では、次のような背景が挙げられています。いずれも診察と検査を経てはじめて分かるもので、見た目だけで判断できるものではありません。
甲状腺の働きが高まっている場合(甲状腺機能亢進症)
甲状腺機能亢進症は、10歳を超えた猫でもっとも多い内分泌の病気とされています(米国の動物医療センターによる、米国猫医療専門家協会AAFPの2016年ガイドライン解説より)。同解説では、この状態の猫はふだんより活動的になり、食べる量が増え、トイレの回数が増え、過剰に毛づくろいをし、よく鳴くようになると説明されています。国内の動物病院の解説でも、よく食べているのに体重が減っていくことが見過ごされやすい特徴として挙げられており、「元気で食欲もあるから大丈夫」と受け取られてしまいがちだと注意が促されています。夜間に落ち着かない、じっとしていられないという相談から見つかることもあるとされています。
血圧が高くなっている場合
猫の高血圧は、慢性腎臓病や甲状腺機能亢進症などに伴って起こる二次性のものが多く、目・脳・腎臓・心臓に負担がかかることがあると、猫医学の国際団体ISFMが2017年に公表したコンセンサスガイドラインで整理されています。同ガイドラインでは、高齢猫では珍しくない一方で血圧測定が行われる機会が少なく、見つかりにくいことも指摘されています。目に影響が及ぶと急に見えにくくなることがあり、その戸惑いから落ち着かない様子につながる場合もあると国内の動物病院は説明しています。
痛みがある場合
猫は痛みを声に出して訴えないため、行動の変化として現れることが多いとされています。国内の動物病院の解説では、10歳以上の猫のレントゲン写真を調べたところ、6割以上に変形性脊椎症や変形性関節症の所見が見つかったという調査が紹介されています。高い場所に登らなくなる、ジャンプの着地を失敗する、寝ている時間が増える、触られるのを嫌がる、毛づくろいが減るといった変化と一緒に、落ち着かず姿勢を変え続ける様子が見られることがあります。

目が見えにくくなっている場合
視力が落ちると、慣れた部屋でも壁づたいに歩く、家具にぶつかる、段差の手前で立ち止まるといった様子が出ることがあります。同じ場所を行き来しているように見えて、実は現在地を確かめながら歩いていることもあります。暗い時間帯だけ動きが不安定になるかどうかは、伝える価値のある情報です。
トイレがうまくいかない場合
尿の出にくさ、便秘、間に合わない不安などから、トイレと寝床のあいだを何度も往復することがあります。前述の尿道閉塞のほか、慢性腎臓病による多飲多尿、便秘によるいきみなども、落ち着かない動きにつながる可能性があると説明されています。トイレの中で長くしゃがんでいる、出た量が少ない、鳴きながら入る、といった点は必ず見ておきたいところです。
空腹・不安・生活リズムの変化による場合
食事の間隔が空いて空腹になっている、同居動物や来客で落ち着かない、模様替えをした、留守番の時間が変わったなど、暮らしの側の事情が背景にあることもあります。決まった時間に決まった場所で動き回るのであれば、生活リズムとの関係を疑ってみる価値があります。
| うろうろの見え方 | 一緒に見られやすい様子 | 受診時に伝えたいこと |
|---|---|---|
| トイレと寝床を何度も往復する | 尿が出ない・少ない、鳴く、陰部をなめる | 最後に尿が出た時刻、量、色 |
| 日中も夜も動きが増えた | よく食べるのに痩せる、よく鳴く、毛並みが荒れる | 体重の変化、ごはんの量、鳴く時間帯 |
| じっと座っていられず姿勢を変える | 高い所に登らない、触られるのを嫌がる | 登らなくなった場所、いつ頃からか |
| 壁づたいに歩く・物にぶつかる | 急に見えにくそう、瞳孔が開いている | 暗い時間帯との関係、いつからか |
| 夜だけ歩き回り大きな声で鳴く | 昼夜が逆転している、トイレ以外で排泄 | 始まった時刻と続いた時間 |
| 決まった時間だけそわそわする | 食事前後、来客時、留守番の前後 | 直前に何があったか |
認知機能の低下(高齢性認知機能不全症)も、夜間に歩き回る、鳴き方が変わる、トイレ以外で排泄するといった変化として現れることが知られています。ただし埼玉県獣医師会の解説では、認知症を疑った場合でもまず他に病気がないかを確認するという順序が示されています。つまり認知機能の低下は、上に挙げたような体の不調を除いていった先で考えられるものだということです。認知機能不全そのものの詳しい説明と、家の中の環境をどう整えるかについては、猫の徘徊をテーマにした記事で別途まとめています。
いつ・どこで・どんなふうに——観察の記録のとり方
診察室では、猫は緊張して家とはまったく違う様子になります。だからこそ、家での記録が診断の手がかりになります。難しく考えず、スマートフォンのメモに数日ぶん書き留めるだけで十分です。
1時刻と続いた時間を書く
「何時から何分くらい」を残します。夜間に集中するのか、食事の前後なのか、時間帯の偏りが見えてくると、生活リズムとの関係も判断しやすくなります。
2場所と動きの経路を書く
玄関とリビングを往復する、部屋の隅で止まる、壁づたいに歩く、円を描くように回る——経路の形は、神経や視覚の状態を考えるうえで意味を持つことがあります。同じ方向にばかり回るかどうかもメモしておきます。
3食事・水・トイレの状況を書く
食べた量、水を飲む回数、尿と便の回数・量・時刻を並べて書いておきます。「最後に尿が出たのはいつか」は特に重要な情報です。体重を週に1回でも量っておくと、変化が数字で見えるようになります。
4止まるきっかけを書く
声をかけると止まるのか、抱き上げると落ち着くのか、ごはんを出すと止まるのか。反応の有無は、痛みや不安、認知機能の状態を考えるときの材料になると説明されています。

記録は完璧でなくてかまいません。3日ぶんでも、傾向が見えれば十分に役に立ちます。
動画を撮って獣医師に見せるという方法
言葉で伝えにくい動きこそ、動画が力を発揮します。国内の動物病院も、症状は診察室では再現されないことが多いため、家でのありのままの様子をスマートフォンで撮っておくことをすすめています。歩き方の違和感、震え、発作のような動き、呼吸の様子などは、数秒でも記録が残っていれば、獣医師が客観的に確認する手がかりになると説明されています。

1全身が入るように、少し引いて撮る
足の運びや体の傾きが分かるよう、体全体が画面に入る距離から撮ります。手ぶれを抑えるため、可能なら壁や机に肘をつけて固定します。
2明るさを確保し、音も残す
夜間なら部屋の明かりをつけて撮ります。鳴き声や呼吸の音も情報になるので、音声は消さずに残します。
315〜30秒を複数回に分けて撮る
長い動画より、短いものが複数あるほうが診察では見やすくなります。落ち着いているときの様子も一緒に撮っておくと、比較の材料になります。
4撮影日時が分かる状態で持参する
スマートフォンの撮影日時をそのままにしておけば、記録メモと突き合わせられます。受付で「動画があります」と伝えておくと、診察がスムーズです。
なお、動きを止めようとして無理に抱き上げたり、追いかけて撮ったりすると、本来の様子が写らなくなってしまいます。少し離れた場所から、静かに撮るのがこつです。
家でできることと、控えたほうがよいこと
受診までのあいだ、家で心がけられることがあります。いずれも治療ではなく、猫の負担を減らすための工夫です。
✅こんな人におすすめ
受診の予約はしたけれど、それまでの数日をどう過ごせばよいか迷っている方
歩く経路にある物をどけて、ぶつかってけがをしないようにする。水飲み場とトイレを、寝床から近い場所にも増やす。段差にすべり止めを敷く。夜間に足元灯をつけておく。こうした調整は、視覚の低下や関節の痛みがある場合にも負担を減らすことにつながると案内されています。声をかけるときは、驚かせないよう正面からゆっくりと近づきます。

一方で、人用の鎮痛薬やサプリメントを自己判断で与えることは避けてください。猫は人や犬とは薬の代謝が異なり、市販の解熱鎮痛薬で重い中毒を起こすことが知られています。また、うろうろを止めようとして閉じ込める、無理に押さえつけるといった対応も、不安を強めたりけがにつながったりする可能性があります。食事内容を大きく変えるのも、受診前は控えたほうが検査の解釈がしやすくなります。
それでも夜が続くとご家族が疲れてしまいます。眠れない日が続くようなら、そのこと自体も遠慮せず獣医師に伝えてください。介護の負担を含めて相談に乗ってくれる病院もあります。
動物病院で行われることが多い確認
受診すると、まず飼い主さんへの問診から始まるのが一般的です。埼玉県獣医師会の解説でも、行動の変化を聞き取ることが診断の出発点として挙げられています。ここで、先ほどの記録と動画が生きてきます。

そのうえで、身体検査(触診で痛みや関節の動きを確かめる)、血液検査、尿検査、血圧測定、必要に応じて甲状腺ホルモンの測定や画像検査などが行われることがあります。米国動物病院協会(AAHA)と米国猫医療専門家協会(AAFP)が2021年に公表した猫のライフステージガイドラインでは、シニア期の猫には半年に1回程度の健康チェックがすすめられており、国内の動物病院でも高齢期には血圧や甲状腺ホルモンの確認を加える案内が見られます。どの検査を行うかは症状と年齢によって変わりますので、費用や進め方も含めて診察時に相談してください。
加齢による変化と診断された場合でも、それは「何もできない」という意味ではありません。痛みや不安をやわらげる方法、暮らしの整え方について、獣医師と一緒に考えていくことができます。
よくある質問
シニア期に入ってからの体の変化を全体的に知っておきたい方は、次の記事もあわせてご覧ください。
※本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状は動物病院にご相談ください。
まとめ
高齢の猫がうろうろするとき、飼い主さんにできるのは、原因を言い当てることではなく、確かめるべきことを落ち着いて見ていくことです。まず尿が出ているか、呼吸は苦しくないかといった急ぐサインを確認し、そうでなければ、時刻・場所・経路・食事とトイレ・止まるきっかけを数日ぶん記録する。可能なら15〜30秒の動画を残す。それだけで、診察の精度は大きく変わります。
背景として知られているものには、甲状腺の働きの変化、高血圧、関節などの痛み、視覚の低下、排尿・排便の困りごと、空腹や不安があり、いずれも診察と検査を経てはじめて分かるものです。認知機能の低下は、それらを確かめた先で考えられるものとされています。
もしものときの流れを知っておきたい方、悲しみとの向き合い方を探している方は、次の記事も静かにご覧いただけます。
いつかお別れの日が来ることを思うと、夜中の足音さえ愛おしく感じられることがあります。今日のその歩みが、少しでも穏やかなものでありますように。