夜中に急に大きな声で鳴く。トイレのすぐそばで粗相をしてしまう。名前を呼んでも、こちらを見ない。長く一緒に暮らしてきた猫にそんな変化が出てくると、「もしかして、ボケてきたのかな」という言葉が頭をよぎります。
そして同じくらい、飼い主さんの側にも変化が起きています。眠れない夜が続き、洗濯物が増え、外出のたびに落ち着かない。まわりには言いにくいけれど、正直しんどい——そう感じている方は、決して少なくありません。
この記事では、症状の見分け方や治療の話ではなく、介護する側の暮らしをどう回していくかに絞ってまとめました。夜鳴きと睡眠の守り方、粗相への備え、家の中の危険をへらす工夫、家族での分担、そして疲れたときに頼れる先。当メディア編集部が、獣医療の公開情報と国内外の調査をもとに整理しています。


一言でいうと、高齢の猫の「ボケてきたかも」という変化は、治すより「暮らしの側を合わせる」ほうがうまくいくことが多いとされています。夜鳴き・粗相・徘徊のそれぞれに、家の中でできる備えがあります。そして、飼い主さんが休む時間を確保することも、立派な介護のひとつです。
「うちの子、ボケてきたかも」と感じたときに知っておきたいこと
高齢の猫に見られる、加齢にともなう行動の変化は、獣医療の分野では「認知機能不全症候群」と呼ばれています。Moffatらが11〜21歳の猫154頭を対象に行った調査では、11〜14歳の約28%、15歳以上では約50%に、ほかの病気では説明のつかない行動の変化が見られたと報告されています(Landsberg らの総説 Journal of Feline Medicine and Surgery 2010/Sordo らの総説 Veterinary Record 2021 に引用)。
つまり、シニア期に入った猫にこうした変化が出てくること自体は、めずらしいことではありません。お世話の仕方が悪かったから起きた、というものではないということを、最初にお伝えしておきたいと思います。

飼い主が気づいていても、伝えられていないことが多い
2024年に Journal of Feline Medicine and Surgery に掲載された調査(8歳以上の猫の飼い主を対象とした質問紙調査)では、こうした変化のうちいちばん多く挙げられたのは「場にそぐわない鳴き声」で40.0%、次いで夜間の落ち着かなさが31.3%、粗相が26.3%、見当識の乱れが18.7%と報告されています。
同じ論文では、別の飼い主調査を引きながら「具体的に質問されれば75%が変化に気づいていると答えたのに、自分から申し出たのは12%にとどまった」という点にも触れられています。つまり、多くの家庭で起きているのに、診察室では語られにくいのがこの領域です。「こんなことで相談していいのかな」と迷う必要はありません。
まず、ほかの原因がないかを確認しておく
ここが大切なところです。夜鳴きも粗相も、加齢による行動の変化だけで起こるとは限りません。痛み、目や耳の変化、内臓の病気、内分泌の異常などでも似た様子が見られることがあるとされています。「歳だから仕方ない」で片づけてしまうと、対応できたはずのつらさを見逃してしまうことがあります。
ですので、この記事の工夫を試す前に、一度かかりつけの動物病院で相談しておくことをおすすめします。診断や治療の判断は獣医師にゆだね、そのうえで暮らしの側を整えていく——この順番がいちばん無理がありません。
夜鳴きが続くとき、飼い主の睡眠をどう守るか
介護でいちばん先に削られるのは、飼い主さんの睡眠です。そしてここが削られると、日中の気持ちの余裕まで一緒に失われていきます。猫の夜鳴きを止めることより、飼い主さんがまとまって眠れる形をつくることを優先して考えます。

1夜のあかりを完全には消さない
暗く静かな時間帯は、不安が強まりやすいとされています。豆電球や足元灯をひとつ残しておくだけで、落ち着いて過ごせる子もいます。まずはお金のかからないところから試します。
2寝床を飼い主の近くに移す
呼んでも姿が見えないことが不安につながっている場合、寝室の入口や枕元近くにベッドを置くと鳴かなくなることがあります。逆に、飼い主の物音で目覚めてしまう子は、少し離した静かな部屋のほうが休めることもあります。両方試して、合うほうを選びます。
3日中に「起きている時間」をつくる
昼夜のリズムがゆるやかになると、夜に活動が寄りやすくなります。日当たりのよい窓辺に寝床を移す、短い時間そっと声をかける、食事の時間を一定にする——負担にならない範囲で、日中に光と刺激が届くようにします。無理に遊ばせて疲れさせる必要はありません。
4夜のルーティンを固定する
寝る前にトイレを整える、水を新しくする、決まった場所で少しだけ食べさせる。順番を毎晩同じにしておくと、猫にとっての予測がつきやすくなります。飼い主さん側も、迷わず動けるぶん消耗が減ります。
5飼い主が眠るための道具を使う
どうしても鳴き声が続く夜は、耳栓やホワイトノイズを使う判断も必要です。「聞こえないようにするなんて」と後ろめたく感じるかもしれませんが、安全が確保された部屋であれば、飼い主さんが眠ることを優先してよい場面はあります。倒れてしまっては、明日のお世話ができません。
すぐに効く方法はなかなかありません。1つずつ、2〜3日ごとに変えて様子を見ていくと、その子に合うものが見つかりやすくなります。叱っても改善にはつながらず、不安を強めてしまうことがあるとされていますので、声を荒らげてしまった夜があっても、そこは責めずに切り替えてください。
粗相への備えと、片づけを軽くする工夫
粗相がつらいのは、汚れそのものより「毎回きれいにしなければ」という終わりのなさかもしれません。ここは発想を変えて、失敗しない環境をつくることと、失敗しても片づけが数十秒で終わる形にしておくことの両方で考えます。

「間に合わない」を減らす
高齢になると、トイレの場所が分からなくなることに加えて、間に合わない・またぎにくいという身体の事情も重なります。次のような調整が、暮らしの中では取り入れやすい工夫です。
- 数を増やす:よく過ごす部屋それぞれに1つずつ。移動距離が短いほど失敗は減ります
- 縁の低い容器に替える(浅い衣装ケースや、片側を切り下げたタイプ)
- フタ・段差・階段の先など、たどり着くまでの障害を取り除く
- 足がすべる床には、洗えるマットを敷いて踏ん張りやすくする
- 寝床のすぐそばにも1つ置く(起きてすぐ間に合う距離に)
片づけを「数十秒」で終わる形にしておく
粗相しやすい場所が決まってきたら、そこを守る側に回ります。ペットシーツを広めに敷く、洗えるラグに替える、ソファや寝具には防水シーツをかけておく。拭くのではなく「取り替えるだけ」にしておくと、心の負担がはっきり軽くなります。
掃除道具も、置き場所を決めてひとまとめにしておきます。ペット用の消臭剤、使い捨て手袋、ビニール袋、替えのシーツ。夜中に暗いなかで探し回らずに済むだけで、翌日の疲れ方が変わります。においが残ると同じ場所を繰り返す一因になるとも言われますので、消臭までを1セットにしておくと安心です。
体を拭くケアは、短く・こまめに
汚れてしまったときの全身シャンプーは、高齢の猫にとって負担になることがあります。蒸しタオルやペット用のウェットシートで汚れた部分だけを短時間で拭き、しっかり乾かす方法が現実的です。皮膚が赤くなっている、においが強い、脱毛があるといったときは、自己判断でケアを続けず動物病院にご相談ください。
家の中の危険をへらす(すき間・段差・脱走)
同じ場所をぐるぐる歩く、狭いところに入り込む、といった様子が出てきたら、家の側を先に整えておくと安心です。止めさせるのではなく、歩いても危なくない家にしておくのが基本の考え方になります。

1すき間と裏側をふさぐ
家具の裏、冷蔵庫や洗濯機の横、ベッドの下。入り込んで自力で出られなくなると、そこで長時間鳴き続けることになります。クッションや収納ケースで先に埋めておきます。
2段差と落下を想定する
以前は上れた場所でも、降りるときに失敗することがあります。よく上がる場所の下にマットを敷く、ステップを足す、または上れないように動線を変える。キャットタワーは高さのある段を外す判断も検討します。
3水回りと火のまわりを閉じる
浴槽の水は抜いておく、洗濯機のフタは閉める、コンロまわりには近づけない。ふらついたときに危険が大きい場所から順に対策します。
4脱走の経路をなくす
玄関・ベランダ・網戸は、思わぬタイミングで出てしまうことがあります。柵やロックを足し、迷子札やマイクロチップの登録情報が最新かどうかも、この機会に確認しておくと安心です。
5よく通る道に、水と休み場所を置く
歩き回る道すじに水飲み場を増やしておくと、脱水を防ぐ助けになります。休める寝床も何か所かに分散させ、遠くまで戻らなくてよいようにします。
一度に全部やろうとすると疲れてしまいます。まずは「その子が今いちばん長く過ごす部屋」だけを整えるところから始めて、余力があるときに範囲を広げていく形で十分です。
家族で介護を分け合う
介護が特定のひとりに集まりやすいのは、動物でも人でも同じです。そして集中した人ほど、「自分がやらないと」と抱え込み、助けを求めにくくなっていきます。役割を言葉にして分けておくことが、いちばん確実な予防になります。

「気づいた人がやる」をやめて、担当を決める
分担でつまずきやすいのは、頼み方が曖昧なときです。「手伝って」ではなく、担当と時間帯まで決めてしまうほうがうまくいきます。下の表は、決めておくと迷いにくい項目の一例です。
| 決めておくこと | 決め方の例 | ねらい |
|---|---|---|
| 夜の見守り | 平日は自分、週末はもう一方の家族が交代 | どちらかがまとまって眠れる夜をつくる |
| トイレ・粗相の片づけ | 気づいた人ではなく、朝と夜で担当を固定 | 「いつも自分ばかり」を防ぐ |
| 通院・薬の管理 | 担当を1人に固定し、記録はノートで共有 | 伝達もれ・重複を防ぐ |
| 食事・水の交換 | 朝は家を出る前の人、夜は帰宅が早い人 | 生活動線に合わせて負担を減らす |
| 費用の分担 | 月ごとに上限を決めて共有する | お金の話を先送りにしない |
離れて暮らす家族にも、状況を共有しておく
写真や短い動画を送って様子を共有しておくと、いざ手伝いを頼むときに話が早く進みます。「そんなに大変だと思わなかった」というすれ違いは、情報が届いていないところから生まれがちです。手伝えない人にも、状況だけは伝えておくと、気持ちの面での孤立が少し和らぎます。
介護がつらいと感じるのは、自然なことです
ここは、いちばんお伝えしたい部分です。介護をつらいと感じることは、愛情の量とは関係がありません。眠れない日が続き、家が汚れ、外出も減り、終わりの見えない状態が続けば、誰でも消耗します。それは人としてごく自然な反応です。

この「介護する側の負担」は、獣医療の研究でも取り上げられるようになっています。Spitznagel らが慢性・終末期の病気を抱える犬猫の飼い主238名を対象に行った調査(Veterinary Record 2017)では、健康な動物の飼い主と比べて、介護している側にストレス・抑うつ・不安の指標が高く出ることが報告されました。猫の飼い主を対象とした調査(Journal of Feline Medicine and Surgery 2023)でも、同様の傾向が確認されています。
つまり、しんどさは気のせいでも、心が弱いからでもありません。研究の対象になるほど、多くの飼い主が同じところで消耗しています。
もし今、次のような気持ちが浮かんでいたとしても、それは自分を責める理由にはなりません。
こんなふうに感じていても、大丈夫です
- 「早く楽になってほしい」と一瞬でも思ってしまった
- 鳴き声にいら立って、強い声を出してしまった
- 介護のために予定を諦めることが、負担に感じる
- ほかの家族が手伝ってくれないことに、腹が立つ
- この状態がいつまで続くのかと、考えてしまう
どれも、限界まで頑張っている人から出てくる言葉です。責める材料ではなく、「そろそろ誰かに頼るタイミングだ」という合図として受け取ってください。眠れない日が続く、食欲が落ちた、気持ちの落ち込みが長引くといったときは、飼い主さんご自身の体調のほうを先に相談していただきたいと思います。
疲れたときに頼れる先
「全部を自分でやること」が介護ではありません。手放せるところから預けていくほうが、結果として長く寄り添えます。

かかりつけの動物病院
いちばん近い相談先です。夜鳴きや粗相といった暮らしの困りごとも、遠慮なく伝えてかまいません。先に触れたとおり、自分から話す飼い主さんは多くありません。困っていることを具体的に伝えることで、ほかの原因の確認や、その子に合わせた提案につながります。
ペットシッター・訪問型のサービス
留守番が心配な日や、どうしてもまとまって眠りたい日に、数時間だけ来てもらうという使い方ができます。料金はサービス内容・時間・地域によって幅がありますが、訪問1回あたり3,000円〜5,000円程度を目安として案内している事業者が見られます(各社の料金案内より・執筆時点)。高齢のペットに対応できるか、投薬をお願いできるかは、依頼前に確認しておくと安心です。

老猫ホーム・介護型の預かり施設
入院や転居、ご家族の介護など、事情が重なってどうしても難しくなったときの選択肢です。契約は月単位・半年単位など施設によって異なり、途中で自宅に戻す判断ができるところもあります。預けることを「見捨てること」のように受け取る必要はありません。見学して、費用の内訳と看取りの方針を必ず確かめてから決めることをおすすめします。
気持ちを話せる場所
同じ立場の飼い主さんとつながれる場や、動物看護職・カウンセラーの相談窓口もあります。「うちだけではなかった」と分かるだけで、少し呼吸がしやすくなることがあります。お別れのあとの気持ちの揺れについては、こちらもあわせてご覧ください。
よくある質問
※本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状は動物病院にご相談ください。
まとめ
「うちの子、ボケてきたかも」と感じたとき、できることは思っているより地味で、そして確実です。夜のあかりを1つ残す。トイレを1つ増やす。すき間をふさぐ。夜番を交代する。頼れる先に、一度だけ連絡してみる。どれも劇的ではありませんが、積み重なると暮らしは確かに回りやすくなります。
そして、いちばん忘れられがちなのが飼い主さんご自身のことです。眠ること、休むこと、しんどいと言葉にすること。それは介護から逃げることではなく、明日も隣にいるための準備です。つらいと感じるあなたは、じゅうぶんに頑張っています。
いつか来る日のことは、今すぐ考えなくてかまいません。ただ、心の準備として知っておきたくなったときのために、流れをまとめた記事も置いておきます。
今日の夜が、あなたとその子にとって、少しでも静かなものになりますように。