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高齢の犬に初めて起きたてんかん発作|疑われる原因と発作中の対処・動画の残し方・受診の目安

いつもと変わらない夕方だったのに、そばにいた愛犬が突然横に倒れ、体をこわばらせて手足を動かしはじめる。呼びかけても反応がなく、よだれが流れ、ときには失禁することもある——。長く一緒に暮らしてきたシニアの子にそんな様子が起きると、頭が真っ白になって、何をすればいいのか分からなくなってしまいます。

ただ、高齢になってから「初めて」起きた発作には、若い犬のてんかんとは少し違う意味があるとされています。原因が脳や体のどこかに隠れていることがあり、それを調べられるのは検査だけだからです。

この記事では、獣医療の学術資料や動物病院が公開している情報をもとに、高齢の犬に発作が起きたときに知っておきたいことを、静かに整理しました。発作の背景として何が考えられるのか、発作の最中に家族ができること・してはいけないこと、動画を残しておく意味、そしてすぐに連絡したほうがよい発作の見分け方までをまとめています。

飼い主さん
13歳の愛犬が、昨日初めて発作のような症状を起こしました。数分でおさまって、今はいつもどおりに見えます。落ち着いているなら、しばらく様子を見てもいいのでしょうか。
編集部
おつらかったですね。落ち着いて見えても、高齢になって初めて起きた発作は、できるだけ早めに動物病院で相談されることがすすめられています。原因が脳や全身の病気にあることがあり、それは検査でしか分からないためです。発作の様子を動画で残していれば、ぜひ一緒にお持ちください。

一言でいうと、高齢になって初めて起きた発作は、遺伝的な素因が背景にある「特発性てんかん」よりも、脳の病変や全身の病気など別の原因が疑われるため、早めの受診がすすめられます。落ち着いて見えても、原因を調べておくことがその子を守ることにつながります。

高齢の犬に初めて発作が起きたとき、まず知っておきたいこと

犬の発作は、原因のとらえ方によって大きく3つに分けて考えられています。国際獣医てんかん対策委員会(IVETF)が2015年にBMC Veterinary Research誌で公表した合意報告では、検査で原因が見つからない「特発性てんかん」、脳そのものに病変がある「構造的てんかん」、そして体の異常に反応して起こる「反応性発作」という整理が示されています。

犬の発作の背景を特発性てんかん・構造的てんかん・反応性発作の3つに整理した図解
発作の背景となる3つの考え方(当メディア編集部作成)

特発性てんかんは「6か月〜6歳」での初発が多いとされる

同じIVETFの診断指針では、特発性てんかんと判断するための条件のひとつとして、初めての発作が生後6か月から6歳の間に起きていることが挙げられています。つまり、7歳や10歳を過ぎて初めて発作が起きた場合は、この条件から外れることになります。渡辺動物病院(静岡県島田市)や横浜みどり動物医療センター しょう動物病院なども、高齢で初めて発作が出た場合には脳の構造的な病変が強く疑われる、と説明しています。

高齢での初発で考えられる背景

高齢の犬で多いとされるのは、脳腫瘍・脳梗塞・脳出血・脳炎といった脳そのものの病変です。また、脳に異常がなくても、低血糖、腎臓や肝臓の機能低下、電解質(ミネラル)の異常、中毒、熱中症などが引き金となって発作が起こることがあるとされています。これらは「反応性発作」と呼ばれ、もとの病気への対応が中心になります。

日本の獣医大学附属病院の症例をIVETF分類で見直した後ろ向き調査(Hamamotoら、BMC Veterinary Research 2016年)では、2003年から2013年に受診したてんかんの犬358頭のうち、特発性てんかんが172頭(48.0%)、構造的てんかんが76頭(21.2%)と報告されました。初めての発作が起きた年齢の中央値は、特発性てんかんが2.5歳だったのに対し、構造的てんかんは5.5歳と、より高い年齢に寄っていたことが示されています。

分類 背景にあるもの 初発年齢の傾向 確かめ方の例
特発性てんかん 検査をしても原因が特定できないもの(遺伝的素因が関わる場合も) 生後6か月〜6歳が中心とされる 血液検査・画像検査で他の原因が否定されること
構造的てんかん 脳腫瘍・脳梗塞・脳出血・脳炎など脳の病変 高齢での初発で疑われやすい MRIなどの画像検査、脳脊髄液の検査
反応性発作 低血糖・肝臓や腎臓の病気・電解質異常・中毒・熱中症など 年齢を問わず起こりうる 血液検査(血糖値・肝腎機能・電解質など)、問診

どれにあたるかは、見た目の様子だけでは分かりません。「年のせいだろう」と自己判断せず、動物病院で相談することがすすめられています。

発作が起きている間、家族ができること

発作の最中は、飼い主さんにできることは多くありません。けれども、その数分の記録がのちの診察を大きく助けます。落ち着くのは難しいことですが、次の流れを頭の片隅に置いておいてください。

犬の発作中にすること・してはいけないことを整理した図解
発作が起きたときの対応の整理(当メディア編集部作成)

1時計を見て、発作の長さを計る

まず、始まった時刻を確認します。体感の時間は実際よりずっと長く感じられるため、時計やスマートフォンで実際の長さを計ることが大切だとされています。何分続いたかは、緊急性の判断にも診察にも直結する情報です。

2周りの危険をどける

階段や段差の近く、家具の角、水入れ、暖房器具のそばなど、体がぶつかったり落ちたりする危険がある場所であれば、犬を動かすより先に周囲のものをどけて安全を確保します。渡辺動物病院も、まず落ち着いて危険なものや危険な場所がないかを確認するよう案内しています。

3照明と音を落として、そっと見守る

明るい光や大きな音は刺激になることがあるとされています。テレビを消し、少し離れた位置から静かに見守ります。無理に触れたり抱き上げたりせず、そばにいるだけで十分です。

4可能なら動画を撮る

落ち着いて対応できる状況であれば、全身が入る角度でスマートフォンの動画を撮ります。診察のときに、言葉では伝えきれない情報を獣医師に届けてくれます。

5おさまったあとは、静かな場所で休ませる

発作のあとは、ふらついたり、ぼんやりしたり、水を大量に飲んだり、落ち着かない様子が続くことがあります。滑らない床の静かな場所で休ませ、落ち着いてから動物病院へ連絡します。

発作中にしてはいけないこと

シニアの犬の足元にそっと手を添える飼い主
写真はイメージです

とっさに体が動いてしまうものですが、次の行動はかえって危険とされています。知っておくだけで、いざというときの迷いが減ります。

発作中に避けたいこと(デメリットが大きい対応)
  • 口の中に手やタオル、スプーンなどを入れる——「舌を噛まないように」と考えがちですが、噛まれて大けがをする危険があり、必要もないとされています。
  • 体を強く押さえつける、揺さぶる——発作は押さえて止められるものではなく、犬にも家族にも負担になります。
  • 大声で名前を呼び続ける、体を叩く——意識がない状態では届かず、刺激になることがあります。
  • 抱き上げて別の部屋へ運ぶ——落下やけがの危険があります。危険なものを動かすほうが安全です。
  • 水や食べもの、市販の薬・サプリメントを口に入れる——誤嚥(ごえん)の危険があります。薬は必ず動物病院の指示に従ってください。

犬は発作の最中、意識がないことがほとんどとされています。飼い主さんを分かって噛んでいるわけではありません。「守ってあげられなかった」と自分を責めないでください。

発作の動画が、診断の大きな手がかりになる

スマートフォンを手にシニア犬の様子を見守る飼い主
写真はイメージです

診察室で発作が再現されることはまずありません。獣医師は、飼い主さんの説明をもとに「本当にてんかん発作なのか」「体のどこから始まったのか」を推測することになります。ルカどうぶつ二次診療クリニックは、携帯電話などで動画を撮っておくことで判断がしやすくなると説明しており、渡辺動物病院もスマートフォンによる動画撮影は重要な記録になるとしています。

震えやふらつき、失神、睡眠中の体の動きなど、発作とまぎらわしい症状もあります。動画は、それらを見分けるための客観的な材料になります。

動画に残しておきたいポイント

  • できれば発作の始まりから終わりまで(途中からでも役に立ちます)
  • 全身が入る角度で。顔や目の向き、手足の動きが分かると理想的です
  • 暗い時間帯なら、部屋の照明をつけてから撮ります
  • 撮影日時と、発作が続いた長さをメモしておきます
  • 発作のあとの様子(ふらつき・見えていない様子など)も短く残しておくと参考になります

発作が複数回あった場合は、日付・時刻・長さ・様子を書き留めた「発作日記」をつけておくと、経過を伝えやすくなります。手帳でもスマートフォンのメモでも構いません。

すぐに動物病院へ連絡したい発作

動物病院の診察室でシニア犬に寄り添う様子
写真はイメージです

多くの発作は数分以内におさまるとされていますが、なかには時間との勝負になる状態があります。IVETFの合意報告では、5分以上続く発作、または意識が戻らないうちに次の発作が起こる状態を「てんかん重積(重積発作)」とし、24時間以内に2回以上の発作が起こることを「群発発作」と定義しています。

重積状態は体温の上昇や脳へのダメージにつながるおそれがあるとされ、ルカどうぶつ二次診療クリニックは、5分以上発作が止まらない場合はすぐに病院で発作を止める必要があると説明しています。アニコム損保の獣医師監修記事も、重積・群発はいずれも緊急対応を要するため動物病院に連絡して指示を仰ぐよう案内しています。

状況 目安 対応の考え方
発作が止まらない(てんかん重積) 5分以上続く/意識が戻らないまま次の発作が続く 時間帯を問わず、すぐに動物病院へ連絡。夜間救急の受診も検討
短時間に繰り返す(群発発作) 24時間以内に2回以上 その日のうちに動物病院へ連絡し、指示を仰ぐ
高齢になって初めての発作 1回でおさまった場合も含む 落ち着いていても早めに受診し、原因の検査を相談する
発作後の様子が戻らない ふらつき・ぼんやりが長く続く/繰り返すたびに重くなる 次の診察を待たず、動物病院に相談する

かかりつけの動物病院の夜間対応と、近隣の救急対応病院の連絡先を、あらかじめ冷蔵庫やスマートフォンに控えておくと、いざというときに慌てずにすみます。

動物病院で行われること・伝えたいこと

窓辺で静かに休むシニアの犬
写真はイメージです

受診では、まず問診と身体・神経学的な検査が行われ、そのうえで血液検査によって低血糖・肝臓や腎臓の異常・電解質異常などがないかが確認されるのが一般的とされています。それらで説明がつかない場合や、高齢での初発など構造的な病変が疑われる場合には、MRIなどの画像検査や脳脊髄液の検査が検討されることがあります。検査ができる設備は病院によって異なり、二次診療施設を紹介される場合もあります。

治療の内容や薬の選択は、原因・年齢・持病・発作の頻度などによって一頭ごとに異なります。この記事では具体的な薬や量には触れません。必ず診察を受けたうえで、担当の獣医師と相談してください。

受診のときに伝えたいこと

  • 発作が起きた日時と、続いた長さ
  • 体のどこから始まったように見えたか(顔・前足など)、左右差の有無
  • 意識やよだれ、排尿・排便の有無
  • 発作の前後の様子(そわそわしていた/終わったあと歩けなかった など)
  • これまでの発作の回数と間隔
  • 持病、飲んでいる薬やサプリメント、直前に口にした可能性のあるもの
  • 撮影した動画

発作とともに暮らす日々と、そばにいる時間のこと

シニア犬のそばに静かに寄り添う飼い主の手
写真はイメージです

発作のある子との暮らしでは、家の中の環境を少し整えるだけで安心感が変わります。滑りにくい床材を敷く、階段や段差にはゲートを置く、寝床は家具の角から離れた場所にする、留守番中の様子が分かるようカメラを置く——できる範囲で構いません。生活のリズムを一定に保ち、暑さや強い刺激を避けることも、静かに過ごすための工夫とされています。

そして、発作を見守る時間は、家族の心にも重くのしかかります。眠れない夜が続いたり、「気づいてあげられなかった」と自分を責めてしまったりすることもあるでしょう。どうか、ご自身のこともいたわってあげてください。

高齢の子の場合、原因によっては、この先の時間について獣医師から話があるかもしれません。すぐにその話をする準備ができていなくても構いません。ただ、心の片隅に流れだけを置いておくと、そのときに慌てずにすむこともあります。

よくある質問

Q高齢の犬が初めて発作を起こしましたが、すぐにおさまりました。様子を見てもよいですか。

A落ち着いて見えても、早めに動物病院で相談されることがすすめられています。高齢での初発は、脳の病変や全身の病気が背景にある可能性が指摘されており、それは検査でしか分からないためです。発作が5分以上続いた場合や、短時間に繰り返す場合は、その場ですぐ動物病院へ連絡してください。

Q発作はどのくらいの時間で終わるものですか。

A多くの発作は数分以内におさまるとされています。IVETFの合意報告では、5分以上続く場合や、意識が戻らないうちに次の発作が起こる場合を「てんかん重積」と定義しており、緊急の対応が必要とされています。体感時間は実際より長く感じられるため、時計で計ることが大切です。

Q発作のあと、ふらついたりぼんやりしたりしています。大丈夫でしょうか。

A発作のあとに一時的にふらつく、見えていない様子になる、落ち着かない、大量に水を飲むといった変化がみられることがあるとされています。多くは時間とともに落ち着いていきますが、長く続く場合や、繰り返すたびに重くなる場合は、次の診察を待たずに動物病院へご相談ください。

Q動画はどのように撮ればよいですか。

A全身が入る角度で、できれば発作の始まりから終わりまで撮ります。暗い時間帯は照明をつけ、顔の向きや手足の動きが分かるようにすると参考になります。途中からの短い動画でも役に立ちますので、まずは安全確保を優先し、余裕があれば撮影してください。

※本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。気になる症状は動物病院にご相談ください。

まとめ

高齢になって初めて起きた発作は、特発性てんかんの条件とされる「生後6か月〜6歳の初発」から外れるため、脳腫瘍や脳梗塞などの構造的な病変、あるいは低血糖や肝臓・腎臓の病気などによる反応性発作が背景にある可能性が指摘されています。落ち着いて見えても、原因を調べる相談を早めにしておくことがすすめられます。

発作の最中にできることは、時間を計り、周りの危険をどけ、静かに見守り、可能なら動画を残すこと。口に手やものを入れたり、押さえつけたりはしないこと。そして、5分以上続くとき、意識が戻らないまま繰り返すときは、時間を置かずに動物病院へ連絡してください。

怖い思いをされたぶんだけ、その子を想う気持ちの深さが伝わってきます。今日という一日が、あの子にとって穏やかな時間でありますように。

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