ソファの前で立ち上がろうとして、後ろ足が小刻みに震えている。眠っているときに手足がピクピクと動く。抱き上げると、体全体が細かく揺れている——高齢期に入った犬にこうした変化が出てくると、飼い主さんの多くが「歳だから仕方ないのかな」と考えます。
けれど、震えは「加齢そのもの」ではなく、体のどこかで起きていることを外に知らせているサインであることがあります。寒さや不安のような一時的な理由で震えることもあれば、痛みや内臓の不調、神経の病気が背景として指摘されることもあります。そして、震えとよく似て見える「けいれん発作」は、まったく別のものとして扱われます。
この記事では、当メディア編集部が大学の動物医療センターや動物病院が公開している情報を調べ、まず受診を急ぎたい震えの見分け方を最初にまとめました。そのうえで、背景として指摘されている要因、受診の質を上げるための記録のしかた、家庭でできる工夫を順にご案内します。「歳だから」で片づけずに済むよう、静かにご一緒します。


一言でいうと、高齢の犬の震えは「意識があるか・呼びかけに反応が返るか」でまず分け、反応がない・倒れる・よだれや失禁をともなう・繰り返す場合はすぐ動物病院へ、というのが最初の分岐点です。それ以外の震えも「加齢のせい」と決めつけず、動画と記録を持って一度診てもらうと、原因の見当がつきやすくなります。
高齢の犬が震えるとき、最初に確かめたいこと

高齢の犬の震えを前にしたとき、飼い主さんが最初に迷うのは「これは急ぐことなのか、様子を見ていいのか」という一点だと思います。実は、この判断のために家庭でできる確認は、それほど多くありません。
まず「声をかけて、反応が返るか」を見る
震えているあいだに名前を呼んでみて、目を向ける、耳や尻尾が動く、こちらを見るといった反応が返ってくるかどうかが、最初の手がかりになります。桑原動物病院は、ご家族の声かけでその震えが止まり、動物が問題なく日常生活を送っている場合は経過観察でよいとしたうえで、何度も繰り返し震えが起こる、元気・食欲がない、体重が減少する、意識がないといった場合は受診をすすめています。
反対に、呼んでも反応がない、目が虚ろで焦点が合っていない、体が突っ張って自分の意思で動かせていないように見える——このときは「震え」ではなく、けいれん発作として扱われる状態の可能性があります。次の見出しで詳しくご説明します。
「歳だから」で片づけない理由
高齢の犬の震えについて、桑原動物病院は、寒さや精神的緊張時にみられる生理的要因のほかに、関節炎、神経・筋肉、ホルモンや内臓疾患など、さまざまな病気によって引き起こされるものがあると説明しています。そして高齢であるからと判断せずに、まずは動物病院を受診することをすすめています。
加齢によって筋肉が落ち、震えやすくなることは確かにあります。けれど「加齢のせい」と結論づけられるのは、ほかの背景が否定されたあとです。診察を受けたうえで「年齢による変化でしょう」と言われるのと、家庭で「歳だから」と決めてしまうのとでは、意味がまったく違います。痛みが原因だった場合、そのぶん長く痛みを我慢させてしまうことになります。
すぐに動物病院へ|受診を急ぎたい震えのサイン

次のような様子が見られるときは、時間帯を問わず動物病院に連絡してください。夜間や休診日であれば、かかりつけの留守番電話の案内や、地域の夜間救急動物病院が窓口になります。
震えとけいれん発作は、別のものとして扱われる
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい点です。震えとけいれん発作は見た目が似ていますが、獣医療では区別して扱われます。
日本動物医療センターは、けいれん発作は震えと異なり「犬の意識は無いことが多く、犬自身での意思でコントロールができる状態ではありません」と説明しています。具体的な発作の様子としては、四肢をピンと伸ばして歯を食いしばり口から泡を吹くような強直性痙攣や、横になって手足を泳ぐようにバタバタさせる間代性痙攣が挙げられています。ただし同センターは、まれに意識はありつつ体の一部分が勝手に震えてしまうけいれん発作の症状もある、とも補足しています。
つまり、「意識があるか・反応が返るか」は最も分かりやすい手がかりですが、それだけで発作を完全に否定できるわけではありません。判断そのものは獣医師に委ね、飼い主さんは「どう見えたか」を正確に伝えることに集中していただくのがいちばん確実です。
5分以上続くとき、繰り返すときは急ぐ
森田動物医療センターは、発作が5〜10分以上続く場合や、発作の頻度が高く意識が回復しないまま次の発作が繰り返される場合について、てんかん発作(重積発作)の可能性があり重篤な後遺症が残るリスクがあるとして、速やかな受診が必要だと説明しています。
また日本動物医療センターは、けいれん発作が続くようならすみやかに動物病院を受診すること、すぐに落ち着いたとしてもなるべく早く受診することをすすめています。「おさまったから大丈夫」ではなく、「起きたこと自体を診てもらう」という考え方です。
発作が起きているあいだ、家庭でできること
発作の最中は、無理に押さえつけたり口の中に手を入れたりせず、周囲の家具や段差から離して、ぶつかってけがをしないようにすることが基本とされています。そのうえで、日本動物医療センターはけいれん発作の起きている時間を記録し、余裕があれば動画で発作の様子を録画しておくと、その後の診察時に役立つとしています。
怖い場面で落ち着いて動くのは簡単ではありません。それでも、時計を見ることと、スマートフォンを向けることの2つだけ覚えておいていただければ十分です。
高齢の犬の震えの背景として指摘されているもの

ここから先は「原因の候補」であって、診断ではありません。同じ震えでも背景はさまざまで、家庭で見分けることはできません。どんな可能性が挙げられているかを知っておくと、診察で伝えるべきことが見えてきます。
震えの背景として挙げられている主なもの
ほさか動物病院は、犬のふるえの原因を生理的なものと病的なものに分けて整理しています。生理的なものとして寒冷刺激(特に小型犬や短毛種)、緊張・不安(特定の場所や雷の音など)、喜び・興奮(家族の帰宅時など)を挙げ、病的なものとして関節炎・椎間板ヘルニア・腹痛などの痛み、低血糖、中毒(チョコレート、キシリトール、除草剤など)、神経疾患・てんかん、腎不全・肝不全・低カルシウム血症といった内臓疾患を挙げています。
| 背景として指摘されるもの | あわせて見られることがある様子 | 家庭で確認しておきたいこと |
|---|---|---|
| 痛み(関節炎・椎間板ヘルニアなど) | 立ち上がりに時間がかかる/階段や段差を避ける/さわると嫌がる | いつから歩き方が変わったか |
| 寒さ・体温の低下 | 丸まって縮こまる/暖かい場所へ移すと落ち着く | その部屋の室温 |
| 低血糖 | ふらつく/ぐったりする/食事の間隔が空いていた | 最後に食べた時間 |
| 腎臓・肝臓など内臓の不調 | 飲水量や尿量の変化/食欲低下/体重が減る | 水を飲む量・体重の推移 |
| 中毒(誤食・薬品など) | 嘔吐/よだれ/急に様子が変わる | 拾い食いや誤食の心当たり |
| 前庭疾患 | 頭が片側に傾く/目が左右に細かく動く/同じ方向に回る | いつ突然始まったか |
| 不安・緊張・興奮 | 雷・来客・留守番のあとだけ/落ち着くと止まる | 直前に何があったか |
| 加齢にともなう筋力の低下 | 立っているときだけ後ろ足が震える/散歩の距離が短くなった | 震えるのは立位か伏せているときか |
この表は、あくまで診察で伝える材料を整理するためのものです。当てはまる行があっても、それが原因だと決めつけないでください。複数が重なっていることもあります。
シニア期に多いとされる前庭疾患
つるまき動物病院は、特にシニアの犬に多く見られるものとして「特発性前庭疾患」を挙げ、片方に頭を傾ける(斜頸)、眼球が左右に小刻みに動く(眼振)、急にふらつく・まっすぐ歩けない、同じ方向への旋回運動、吐き気や食欲低下といった症状を挙げています。
同院は、通常の加齢のようにゆっくり進行するのではなく突然現れることが多い点が判断の目安になるとし、前日までは普通に歩いていたのに急にバランスを崩して倒れるといった急激な変化があれば、早急な診察が必要だとしています。
寒さと不安は「よくある」けれど、決めつけない
寒い場所にいたあとだけ震える、雷や来客のあとだけ震える、という場合は、生理的な反応のことがあります。暖めたり、声をかけて落ち着かせたりして止まるのであれば、様子を見てよいとされる範囲です。
ただし高齢期は、体温を保つ力そのものが落ちていることがあります。「寒いから震えているだけ」で終わらせず、その部屋の室温を実際に測ってみることをおすすめします。数字にしておくと、診察で伝えるときにも役立ちます。
場面別|寝ているとき・後ろ足だけ・小刻みに震えるとき

「震える」といっても、飼い主さんが気づく場面はいくつかに分かれます。よく相談される3つの場面について、公開されている情報をもとに整理します。
寝ながらピクピクと震える
眠っているあいだに手足や体が小さくピクピク動くことについて、ヒルズ(獣医師監修)は、これはレム睡眠のときで脳が活発に動いている状態であり、人と同じように夢を見ていると考えられていると説明しています。同社は、体全体をピクピクさせるのはよくあることで、その多くは健康上の問題はないとしたうえで、正常なピクピクは起こすと止まるという見分け方を挙げています。
一方で注意が必要な場合として、全身の震えが長く続く、震えながら体をこわばらせている、嘔吐・口から泡を吹く・便失禁や尿失禁をともなう、目を見開いて意識がないように見える、といった様子を挙げ、こうしたときは様子を動画に収めてすぐに動物病院に相談するようすすめています。
後ろ足だけが震える
桑原動物病院は、老齢犬で起立時に両方の後ろ足が断続的に震える「老齢性後肢振戦」を挙げています。立っているときだけ後ろ足が細かく震え、伏せると止まる——という形は、この呼び名で説明されることがあります。
ただし後ろ足の震えは、関節炎や椎間板ヘルニアなど痛みが背景にある場合にも見られるとされています。「立ち上がるのに時間がかかる」「階段やソファを避けるようになった」「後ろ足をかばうように歩く」といった変化が重なっているときは、加齢による筋力低下と決めつけず、整形外科的な診察も含めて相談してください。犬は痛みを鳴き声で訴えないことが多く、動きの変化だけがサインになることがあります。
小刻みに震え続ける
全身が細かく震え続ける場合、ほさか動物病院は受診の目安として、震えが数時間以上続くこと、嘔吐や下痢の合併、食欲や元気の喪失、全身硬直、意識障害、そして子犬や高齢犬での急性発症を警告サインとして挙げています。高齢の犬で急に始まった小刻みな震えは、それ自体が受診を検討する理由になります。
「病院に行っても、着いた頃には止まっていて説明できない」という声はとても多く聞かれます。だからこそ、次の記録が力を持ちます。
受診の質を上げる|動画と記録が診断の助けになる

震えやけいれんは、診察室では止まっていることがほとんどです。そのため、家庭での記録が診断の材料として重視されます。北海道大学動物医療センターの脳神経内科は、てんかんを「24時間以上離れた少なくとも2回の非誘発性てんかん発作を認める慢性脳疾患」と定義したうえで、「発作の様子など、症状を撮影した動画があると診断の助けになります」と明記しています。日本動物医療センター、桑原動物病院、ヒルズ(獣医師監修)も、それぞれ動画の撮影をすすめています。
1動画を撮る(10〜30秒でよい)
体の一部だけでなく、全身が入るように撮ってください。途中で名前を呼び、反応が返るかどうかまで映しておくと、意識の有無が伝わります。きれいに撮る必要はまったくありません。
2いつ・どのくらい続いたかを記録する
始まった時刻、続いた時間、その日に何回あったか。スマートフォンの時計を見ながら秒数を数えると、あとから正確に伝えられます。5分という区切りが目安になる場面があるため、時間の記録は特に大切です。
3体のどこが、どんな場面で震えたかを書く
後ろ足だけか全身か。立っているときだけか、伏せているときや眠っているときもあるか。小刻みなのか、大きく揺れるのか。言葉にしにくければ、思いついたままの表現で構いません。
4直前の出来事とふだんの様子を添える
最後に食べた時間、拾い食いや誤食の心当たり、散歩や来客・雷などの出来事、そのときの室温。あわせて、食欲・水を飲む量・歩き方・排泄の変化も書き添えると、背景を絞り込む材料になります。
これらは特別な準備ではなく、スマートフォンのメモと動画だけでできることです。震えが起きた日にひと言残しておくだけでも、通院のときに「いつからか」「増えているか」を伝えられます。
家庭でできること|保温・滑らない床・静かな場所

受診を前提としたうえで、家庭の環境を整えることは、震えの引き金を減らすことにつながります。桑原動物病院は、老犬の暮らしの工夫として、適正温度を設定すること(目安24〜28℃)、階段や危険物への対策と滑り止め対策、食器を台の上に置いて与えること、食事をふやかすことなどを挙げています。
- 保温:室温を測って24〜28℃を目安に。寝床は床から離し、毛布を重ねて自分で出入りできる形に
- 滑らない床:フローリングにマットやカーペットを敷く。足裏の毛が伸びていないかも確認する
- 段差を減らす:ソファや玄関にスロープを置く。無理に飛び降りさせない
- 静かな場所:人の通り道から少し外した、暗すぎない落ち着ける一角に寝床を移す
- 抱き方:お腹の下と胸を支え、体をねじらない。痛がる場所を探るように押さえない
- 食事の間隔:空腹の時間が長くなりすぎないよう、回数を分ける(内容の変更は獣医師に相談のうえで)
やらないほうがよいこと
人用の痛み止めや解熱剤を与えることは、中毒の原因になるため避けてください。市販のサプリメントについても、震えの原因が分からないうちに始めると、受診の判断を遅らせることがあります。まず診てもらい、必要なケアを獣医師と決めるほうが、結果的に近道になります。
また、震えているところを強く抱きしめて押さえ込むことも、痛みが背景にある場合はかえって負担になります。そばで名前を呼び、体をさするくらいの距離が、多くの場面で適しています。
「歳だから」と思ったときに、立ち止まりたいこと

高齢期の犬と暮らしていると、変化が続くことに心が追いつかなくなる日があります。震え、歩き方、眠り方、食べる量。ひとつずつ気にしていたら、こちらの生活が回らなくなる——そう感じるのは、無責任なことではありません。
それでも、震えについてだけは「歳だから」と結論を出す前に、一度診てもらう価値があります。痛みや脱水、内臓の不調のように、手当てのしかたがある背景が見つかることがあるからです。原因が分かれば、あの子が過ごす一日は、いまより少し楽になるかもしれません。
そして、診てもらったうえで「年齢による変化」と説明されたのなら、そのときは受け止めていただいてよいのだと思います。看護の方向は、そこから決まっていきます。
介護と看取りの時間が近づいているとき
震えに加えて、寝ている時間が増える、食べる量が減る、立てない日が出てくる——そうした変化が重なってきたときは、看取りの時間が視野に入ることもあります。今すぐ考える必要はまったくありませんが、もしものときの流れだけでも知っておきたい方は、次の記事を静かにご参考にしてください。
また、お別れの前から気持ちが不安定になる方も少なくありません。まだそばにいるのに涙が出る、という状態も、めずらしいことではないとされています。気持ちの揺れが続くときは、こちらもそっとご覧ください。
よくある質問
※本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、診断や治療の代わりになるものではありません。震え・けいれん・ふらつきなど気になる症状は、かかりつけの動物病院にご相談ください。記載した内容は執筆時点(2026年8月)に各機関が公開している情報にもとづいています。
まとめ|「歳だから」と決める前に、一度だけ
高齢の犬の震えは、まず「意識があるか・呼びかけに反応が返るか」で分けるのが最初の一歩です。反応がない、体が突っ張る、倒れる、よだれや失禁をともなう、5分以上続く、短くても繰り返す——このいずれかがあれば、震えではなくけいれん発作として、すぐに動物病院へ向かってください。
そのほかの震えについても、背景として痛み・寒さ・低血糖・内臓の不調・中毒・前庭疾患・不安・筋力の低下などが指摘されており、家庭で見分けることはできません。できるのは、動画を撮ることと、いつ・どのくらい・体のどこが震えたかを記録すること。この2つが、診察の精度をいちばん高めてくれます。そして家では、保温と滑らない床、静かな場所を整えることから始めてください。
あの子の震えの理由が、少しでも早く分かりますように。そして、そばで見守るあなたの心が、今日はすこしだけ軽くなりますように。